戯言ニュース

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唯「あずにゃん、エレベーター動かない…」
1 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/15(日) 02:01:54.97 ID:a7m7L0Ev0
唯「とつぜんですが・・・・平沢唯の天気予報!」テッテレー!

梓「夜中の二時にいきなりなんですか…」

唯「8月15日にちよーび、きょうの天気は唯梓のち律澪、ときどき純梓だよっ」

律「そんな天気あってたまるかーっ!」

紬「わぁ、今日はいい天気になりそうね♪」

唯「13時半ごろからは発達した和ちゃんの影響で唯憂がぴーくとなります。冷たい水を忘れずにもっていこうね!」

憂「わかったお姉ちゃん、たっぷり持っていくね!」

和「私が何するって言うのよ…」

唯「なお、夕方ごろには律澪のおそれがあります! 油断は禁物だよっ」

澪「いや、私たち何に気をつければいいんだ」

唯「でもその後はなだらかな唯梓が続くでしょう、えへへ」

梓「もう好きにしてください!」

唯「以上、平沢唯の天気予報でした~! ばいば~い!」にこっ

律「CMなげーなおい」

澪「ええっと、それでは気を取り直して本編の方をどうぞ」





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ブログパーツ 唯「あずにゃん、エレベーター動かない…」
6 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/15(日) 02:07:04.51 ID:a7m7L0Ev0
かえりみち!

律「じゃあ私らこっからバスだから、そろそろなー」

唯「りっちゃん澪ちゃんまたね!」

澪「唯、日曜だからって明日の勉強会は寝坊するなよ?」

唯「だーいじょうぶだって! 憂がちゃんと起こしてくれるもんっ」

梓「そこは自分で起きましょうよ!?」

紬「まぁまぁまぁまぁ。憂ちゃんもいつもうれしそうだったじゃない」

律「そうだぞー? 世話はできるうちにしとかなきゃ、人生なにがあるか…えぐっ、ひっく」

澪「縁起でもないこと感情こめて言うな!」ポカッ

律「いだっ?!」

唯「あはははっ」



7 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/15(日) 02:12:04.90 ID:a7m7L0Ev0
律「しっかし今日は暑かったなあ…」

唯「うん、もう100度超えてたんじゃないかな?」

律「いやそれ私たち沸騰するだろ!」

唯「あ。そっか、あははは」

澪「…沸騰…炎天下……燃え上がる恋の炎……あ、いけるかもっ」グッ

紬「ふふっ」

律「でも私たちもいつか観客を沸騰させるようなライブがしたいよなあ」

澪「うまいこと言ったつもりか!」

梓「ていうかそれならもっと練習しときましょうよ、もう本番じゃないですか…」

ガチャ

和「みんな、もうそろそろ出番よ? 舞台袖入って」

律「おっそうか! じゃあ私たち放課後ティータイムの底力をみせてやるぜぇっ!」

澪「ううぅ…やっぱステージって慣れない……」




9 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/15(日) 02:17:05.28 ID:a7m7L0Ev0
律「おーしじゃあ円陣くもうぜ! 気合入れよーぜ!」

唯「りょーかいですりっちゃん隊員!」

律「カレーちょっぴり!?」

「「「「ライスたっぷり!!」」」」


梓「でも舞台袖って狭くて暑苦しいですねー…」

澪「それに薄暗くて…なんか、やっぱ苦手だ……」

紬「でも、こういう狭くて暗いところで一緒にいるとなんだかワクワクしてこない?」

唯「あっわかる! 小学校で台風きた時とか、なんかドキドキした!」

律「あの一体感ってなんなんだろうな~」

唯「きっと憂が言ってたつり橋効果ってやつだよ!」

梓「それはなんか違うと思います…」




11 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/15(日) 02:22:05.66 ID:a7m7L0Ev0
和「そういえば唯、あんた昔わざと濡れて帰ったりしてなかった?」

唯「ああ~! なつかしいなあ…」

梓「えっ、どういうことですか?」

和「この子ねぇ、傘持ってるのに『シャワーみたい!』なんて言ってずぶぬれになったりしてたのよ」

律「小学生か…ってその頃は本当に小学生だったか」

唯「ええ~でもギー太がお留守番してるときは今でもたまに」

律「やっぱ小学生かっ!!」

梓「私も雨の天気けっこう好きですけど、打たれたいとまでは…」

唯「ええ~? だってこういうあつい日とか、雨のシャワー想像しただけできもちいじゃん!」

梓(うわ…なんとなく唯先輩の感覚がわかるようになってきた自分が怖い……)



12 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/15(日) 02:27:06.03 ID:a7m7L0Ev0
澪「まったくもう、バカなこと言ってないでそのカキ氷早く食べなって」

唯「――へ? ええっ、わ、わっ」

律「もしや、話に夢中でカキ氷忘れちゃってた系かあ~?」

唯「そんなことないよ! りっちゃんじゃあるまいし…」ブツブツ

律「なんだとー?!こんにゃろう!」

澪「お、お前ら食べ物持ったまま暴れるな!!」ガッ

律「うぎゃ!? いいいまの強かったよ澪しゃん! 今あたまに火花ちったよ?!」

紬「ねぇそろそろ花火が始まるんじゃない?」

澪「そうだな、行こうか」

唯(あれ、なんか変だな…)

律「どーした、唯?」

唯「あっううん、なんでもないよ」




14 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/15(日) 02:32:06.40 ID:a7m7L0Ev0
唯(まあ考えてもしかたないか!)

梓「あの……」

唯「ほら。さ、いこ?」

梓「……はい!」

タッタッタッ

唯(花火、きれいだな)



17 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/15(日) 02:37:06.77 ID:a7m7L0Ev0
唯(来年もみんなで同じ花火見られるかな……)

梓「せんぱい」

唯「?」

梓「……なんでもないです」


梓「――あっあぶない」

唯「へ?」

ドテッ

梓「もう。何もない道で転ぶとか小学生ですかっ」

唯「えへへっ、めんぼくない」




18 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/15(日) 02:42:07.42 ID:a7m7L0Ev0
梓「はい、このアイス溶けちゃう前に食べちゃってください。夕方とはいえまだまだ暑いですから」

唯「え……うん」

梓「どうしたんですか?」

唯「なんかね、ついさっきまでステージにいたり、お祭りでカキ氷を食べてたような気が…」

梓「ずっとこの川原にいましたよ、もう……暑さで頭がおかしくなったか、夢でも見てたんじゃないですか?」

唯「しっしつれいな! こんな時に居眠りとかするわけないじゃんっ」

梓「憂も家ではひたっすらごろごろしてるって言ってましたよー?」

唯「あずにゃん、なぜそれを?! うぅうう…憂に裏切られたのか…!」

梓「唯先輩見てれば想像つきますよ、なんとなく」

唯「そんなに分かりやすいかな、私…」

梓「めっちゃ分かりやすいじゃないですか。うらやましいぐらいですよ」




20 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/15(日) 02:47:07.87 ID:a7m7L0Ev0
梓「でも、言われてみると文化祭から夏祭りまであっという間でしたねー」

唯「そうだねえ」


梓「…時々思うんですよね」

唯「うん?」

梓「今までの楽しかった日々が、もし夢だったらどうしようって」

唯「ゆっゆめじゃないよ、現実だよ!」

唯(……だってほら、こうやってあずにゃんをぎゅって)


唯(って、あれ? 身体がうまく動かせない…)



21 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/15(日) 02:52:08.27 ID:a7m7L0Ev0
梓「……ゆいせんぱい」ぎゅっ

唯(わわっ、あずにゃん大胆な子…!)

唯「……あれ。あずにゃん?」

梓「私たち、いま二人っきりなんですよ」

唯「そ、そうだね…」

梓「だったら…私からも、少しぐらいいいじゃないですか」

唯「……うん」

梓「先輩は、ずるいんです」

梓「私だけ、こんなに、いい出せなくて、つらくて…」

唯(どうしよう、あずにゃん泣いてる…)




22 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/15(日) 02:57:08.64 ID:a7m7L0Ev0
梓「ごめんなさい…ほんとに、ごめんなさい」

唯(えっ…あずにゃん、いきなりどうしたの…?)

梓「私の気持ちが、間違ってるって、分かって“――んぱい! いや、いやですっ!”

唯(あれ、何か聞こえる…って、声が出せない?!)

梓「唯先輩は、私なんかのために、 “――ぃいい!唯っ! しっかりし――” なんて…」
          “…ち着け梓、今憂ちゃんが――”

唯(うう…暑い…くらくらする……)

梓「私はこんな…こんな、気持ち悪いのに」

唯(そんなことないじゃん?! ねぇなんでそんなこと言うの…)

梓「私が、唯先輩に持ってる感情は……とても気持ち悪いものなんです」

唯(……言わないでよ、そんなこと…私だって、おんなじなのに)



24 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/15(日) 02:58:48.38 ID:ylxWGA/j0
ふむふむ



25 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/15(日) 03:02:09.02 ID:a7m7L0Ev0
梓「ただの後輩で、いたかったんですよ?」

唯(やだよ、そんなことないよ…そんな顔で笑わないでよ……)

梓「後輩でいたかったけど、もう“……梓、準備はいいか? じゃあちゃんと受け止――”先輩をだますのがいやなんです」
  “…やくして!はやく! 救急車はまだ――”

梓「唯先輩、あなたのことを……“――い先輩?!”

唯(あついよ…あずにゃん、頭が溶けていきそうだよ……)

 “…ぇちゃん?! 聞こえる? お姉ちゃん?! 今律先輩が――”

       “――ぁぁあああああああアアアアアアアアアア”

唯(り、りっちゃん?!)



26 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/15(日) 03:03:13.89 ID:4ehnu6bK0
これはまた唯×トラックか…



27 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/15(日) 03:06:01.05 ID:ylxWGA/j0
唯トラは王道カプだな



28 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/15(日) 03:07:09.42 ID:a7m7L0Ev0

  “律?! 律、おいどうしたんだよりつうっ”

    “澪ちゃん、エレベーターから離れなさい! あんたも危ないわよ!?”


 神様、どうかお願いです

   “――唯先輩! ……んじゃいやです!”

唯(あずにゃんが夕陽ごと、景色ごと溶けてく……)

“ゆいせんぱい…へんじしてよ……”

     “りつ?りつ…りつ?!おい律、りつっ…”


 ――みんなを、これ以上苦しめないでください



29 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/15(日) 03:12:09.70 ID:a7m7L0Ev0

【2010年08月15日 18:07/Nビル構内】

 光の雨がこの部屋に降り注いだのは、流れた涙さえも蒸発した頃だった。

 停電から一時間近く経った頃、天井裏の物音に気づき顔を上げると強い光が浴びせられた。
 こじ開けた通気口から差し込まれた光に一瞬目が眩んで、思わず空いた右手で視界を遮ってしまう。
 暗闇の灼熱地獄に射したその光は冷たい雨のようにやわらかく感じた。

 懐中電灯の光はふらふらと揺れ、やがて広げた制服の上に横たわる下着姿の私と唯先輩を見つけて降り注ぐ。
 その雨はエレベーターの中で十二時間かけて膨れ上がった熱気をほんの少し弱めてくれた。
 ……少なくとも私にはそう感じた。錯覚だろうか。
 だとしても、どうせ思考回路なんか焼け落ちてしまっているから分からないけれど。

 差し込んだ救いの光から十数秒遅れて声が響く。

 ――唯、梓、大丈夫か?




31 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/15(日) 03:17:10.21 ID:a7m7L0Ev0
 ああ……。
 思わず声をもらしてしまう。不安と期待と恐怖と安心とが一度にあふれでる。
 けれど熱に溶かされた頭ではうまく言葉を組み立てられず、とっさに出たのは焼け付いたようなうめき声ばかりだった。
 起きたことに頭が追いつかない。死にそうな唯先輩がいて、そこに律先輩が来て、

律『やっぱ唯たちここだった!』

澪『そうか! じゃあ二人ともいるんだな?』

律『ああ、早く憂ちゃんに連絡してくれ』

澪『わかった、行ってくる。律も気をつけろよ』

 そうだ、服着なきゃ。
 今さら恥じらいが降って湧いた。
 私は暑さを和らげようと脱いだ服を着なおそうとする。
 けれども、どうしても繋いだ左手をほどく気にはなれなかった。
 こんなあられもない格好を白日に晒したままでいられる程度には理性も蒸発しきっているらしい。

 と。
 そこでようやく声の意味が理解できた。
 あ。私たち、助かるんだ。



32 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/15(日) 03:22:10.69 ID:a7m7L0Ev0
 ゆいせんぱい。
 ねえっ、ゆいせんぱい。
 いい加減おきてください。
 ねえ、おきてくださいよ。 ゆいせんぱい!

 唯先輩の薄れ行く意識をどうにか引き戻そうと、何度も名前を呼んでは彼女の身体を揺さぶった。
 熱くなった身体を抱き起こし、指と指を絡ませて皮膚が癒着するほど握りしめていた左手ごと背中に回して。
 自分の呼び声で他のすべてが聞こえなくなるほど、何度も。何度も。

 左腕で支える唯先輩の背中は少しだけ粘っこい感触がした。
 流れ出た汗の水分だけが蒸発して原液のような汗が取り残されたんだ。
 光に照らされた唯先輩の顔は熱に浮かされていて、唇をゆるりと広げたまま、薄目で浅い息をしていた。
 口元が少しほほえんだ気がした。
 私の声は今も自動的に唯先輩の名を呼び続けているのに、また私が離れていくような感覚が――

律「おい、あずさぁ! 聞こえてるのか!」



34 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/15(日) 03:27:11.19 ID:a7m7L0Ev0

 律先輩の声で我に返った。
 ……ダメだ。まだまともな頭が戻ってきてない。

律「梓、大丈夫か?」

 私の身を案じる太陽のように暖かい声が、少し耐えがたかった。
 違う、そんなこと考えてる場合じゃないんだって。
 早く唯先輩をここから出してあげなくては。

律「落ち着け梓、今憂ちゃんが救急車呼んでるから。唯の具合はどうだ?」

梓「息はしてます! でもさっきから反応がなくて」

律「おーし大丈夫だからな。生理食塩水も買ってきたし」

梓「なんですかそれ!」



37 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/15(日) 03:32:11.57 ID:a7m7L0Ev0
 ほら、これだよ。
 律先輩が通気口に手を差し込み、何かを投げ込んだ。
 それはボコンと音を立てて手すりにぶつかり、太ももの辺りに転がる。あわてて拾う。
 冷たい。
 500ミリリットル容器のペットボトルだった。
 表面の結露で手のひらが濡れる。
 私はとっさに唯先輩の額へと押しつけた。唯先輩が少し声を漏らす。

律「ポカリ。澪が買ってきたやつ。もっと飲むか?」

 そう言って今度は二リットルペットボトルを照らしてみせた。おどけた声の律先輩。
 照らされたペットボトルが半透明の影を作る。
 エレベーターの壁に映った巨大な影はわが子をいたわる母親のようにも見えた。

梓「あ、はい! わかりました」

 我に返り、少し迷って左指をほどく。
 握り合う汗がほどけた時、汗で溶けた皮膚が剥がれたような感じがした。



38 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/15(日) 03:37:12.07 ID:a7m7L0Ev0
 私は律先輩に指示された通り、二人の通学カバンを寄せ集め、通気口の真下に持ってくる。
 そして自分の制服のシャツを上に広げ、さらに私のスカートを――手にとって、これはやめる。
 うわ、まだ湿ってるし。最悪。忘れたい。ごまかすように、自分のシャツになすりつける。

律「……いや、気にしねーから続けろって! 閉じ込められてたんだし、その…しょうがないじゃん!」

 だからそんな目で見ないでくださいって。



39 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/15(日) 03:42:12.42 ID:a7m7L0Ev0
 ほどなく通気口からリュックサックが投げ込まれ、指示された通り応急処置を始めた。
 霧吹きを取り出してミネラルウォーターをそこに注ぐ。少しこぼしてしまった。
 慌てなくていいぞ、と律先輩の間延びした声が響く。

律「ってか澪ってひどいと思わねー? 『一番小さいのお前だからお前が入れ』とかって」

澪『そんなこと言ってる場合か!』

律「じゃあ澪が入れば? あっそれとも澪ちゃん暗闇が怖いとか……いだっ!? 足つねんなよー!」

 こんな状況ですら律先輩と澪先輩は漫才みたいなやり取りを繰り返している。
 まるで部室みたいに軽口を叩く律先輩がどこかまぶしかく見える。
 入部したときから律先輩は太陽のような人だった。

律「梓、手が止まってんぞー。うりゃっ」

梓「ちょ…まぶしいですよ。なにすんですかっ」

 懐中電灯の光を顔に向けられて思わず目を背ける。
 すると一瞬うしろめたい気持ちがした。
 冷却剤の冷たさがやけに指にしみる。
 私はそれをタオルにくるんで、少し離れた位置から唯先輩の首元に当てた。
 自分の体温が伝わらぬようにとなるべく身体を離していたのに、唯先輩は朦朧としたままでも私に手を伸ばそうとする。

 やめてください。
 私を抱きしめたら死んじゃいます。
 そこまで言える勇気は、最後までなかったけれど。




41 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/15(日) 03:47:12.94 ID:a7m7L0Ev0

憂『お姉ちゃん! 大丈夫なの!?』

 聞き慣れた、けれど切羽詰まった声がした。
 はっと我に返る。

律「あっ憂ちゃん、救急車の方は?!」

 律先輩がとたんに真剣な声に戻る。
 いけない。油断するとすぐ頭がぼうっとしてしまう。
 私は自分の手を床に打ちつけた。鈍痛が染み込む。

憂『停電のせいで事故があったらしくて時間かかるらしいんです、二人はどうですか?』

律「いま梓に介抱してもらってるとこ。大丈夫だって、私たちがなんとかするよ」

憂『すみません……梓ちゃん! 聞こえるー?!』

梓「全部聞こえてる、いま応急処置してるとこ!」




43 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/15(日) 03:52:13.30 ID:a7m7L0Ev0
憂『ほんとにだいじょうぶ? ヒヤロンはタオルに巻いて当ててね、あといきなり水飲ませたらショックで――』

梓「律先輩から聞いてる、大丈夫だから」

 大丈夫、大丈夫だから。
 自分にも言い聞かせる。

憂『で、でも!』

律「憂ちゃん、ここは梓を信じよう。もう夕方だし、これ以上暑くはなんないよ」

憂『そう…です、ね』

 憂の涙声は胸の奥で狐の嫁入り雨のようにしとしと流れ込む。
 そういえば、唯先輩も雨が好きだって言ってたな。
 こんなんじゃダメだ。私が唯先輩を救うんだ!

 ――梓ちゃん、お姉ちゃんを頼んだよ。

 ようやく覚悟を決められたとき、突然真っ白い光が流れ込んできた。



45 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/15(日) 03:57:13.68 ID:a7m7L0Ev0

律「うわっまぶしっ」

澪『停電が直ったみたいだぞ!』

紬『えっ、それじゃありっちゃ…』

憂『じゃあもう少ししたら救急車来るんですよね!』

律「おい聞こえたか? あと少しの辛抱だぞ!」

 やった、電気が直った。これで大丈夫だ!
 流れ込んできた光は根拠もなく強い希望まで運んできたようだ。
 急に室内照明が点いたせいで目がくらんでなにも見えなかったからか、もう助け出されたような気さえした。
 よかった。
 唯先輩が外に出られる。

律「じゃあ梓、私はいったん澪のもとにもど


 その瞬間、律先輩の身体を二百ボルトの電流が貫いた。



47 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/15(日) 04:01:57.05 ID:y0AN5Z4LO
律…



51 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/15(日) 04:13:21.43 ID:M2mkU0kWO
ああ!りったん!



52 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/15(日) 04:15:22.64 ID:a7m7L0Ev0

【2010年08月08日 04:15/平沢家 玄関前】

 おはようございます!
 わたくし桜ヶ丘高校三年、平沢唯です。
 いつもは九時まで眠っている私ですが、今日はがんばって早起きしちゃいました!
 だって今日は、念願のあずにゃんとの……

唯「あっあずにゃん、おはよー!」

梓「ひゃ!? もう、自転車止めるまで抱きつくの待ってください」

唯「待てないよぉ! だって、昨日の夜から楽しみにしてたんだよ?」

 制服姿のあずにゃんを見つけて、気が付いたら抱きついちゃってました。
 そんな私の腕をやんわりと外したあずにゃんはくすっと笑って、ちゃんと寝れたんですか、なんて聞いてきます。
 当たり前じゃん…そう言おうとしたのに、

唯「あたり…ま……ふあぁあ…ん……」

 あくびが出ちゃいました。



53 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/15(日) 04:20:23.15 ID:a7m7L0Ev0
梓「日の出見るから早く寝てくださいって言ったじゃないですかっ」

 小さい肩をちょっといからせてむくれるあずにゃん。

唯「ごめんあずにゃん、だってデートが楽しみで眠れなかったんだもん。あずにゃんは違うの?」

梓「なっ……私だってがんばって寝ました!」

 あずにゃんは笑ってるのか怒ってるのかわからない顔でそっぽを向きます。
 あは、かわいいな…! 私は思わず抱きしめちゃいました。ぎゅー。

梓「ごっ、ごまかさないでください」

唯「違うよ。素直になってくれないから、腕の中でちょーえき12秒の刑なんだよあずにゃん」

梓「……なんですか、それ」

 むくれたあずにゃんも可愛いけど、十二秒経つころには……ほら。
 やっぱりほほえんでくれています。
 目を閉じてほほえみを浮かべて私の肩に頭を乗せるあずにゃんに、私もちょっと見とれちゃってました。



55 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/15(日) 04:25:23.66 ID:a7m7L0Ev0
梓「――って! こんなことしてる場合じゃないですよ、早く行きましょう!」

 いきなり大きな声で言われちゃいました。
 えー? もうちょっといいじゃん、あずにゃん分は私の必須栄養素なんだよ?

梓「だーめーでーすー! 日の出の時間わかってるんですか?」

 ええっと……日の出って何時だっけ?

梓「この辺りはこの時期だと五時ぐらいです。ビルまで自転車で三十分はかかりますから、急ぎましょう」

 早口で言うとあずにゃんは自転車に乗り込みました。
 私もあわてて自転車に飛び乗って、走り出したもう一台の自転車を追います。
 後ろから眺めていると、二つに分けた髪が風に揺れて風鈴みたいできれいです。
 私もロングヘアーにしてみよっかな。あずにゃん、気に入ってくれるかな?



56 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/15(日) 04:30:24.15 ID:a7m7L0Ev0

 携帯をちらっと見ると……現在時刻、04時30分。
 新聞配達のバイク以外は誰一人いない明け方の街をあずにゃんと二人で走り抜けます。
 空の色も少しずつ黒から青に変わっていき、砂金のようなに小さな星も自転車のライトの光も少しずつ薄まっていきます。
 信号と電灯だけがぽつぽつと灯されたこの街は、そのときまるで私たちふたりのものになったように思えました。

 ――二人だけの世界も、悪くないかな。
 そんなこと言ったら、りっちゃんたちに怒られそうだけどね。

梓「でも、起きててくれたんですね」

唯「へ?」

 赤信号で止まってたら、突然話しかけられてびっくり。

梓「ほら・・・・今日、曇っちゃったじゃないですか」

唯「あ、うん…そだね。でもそれがどうしたの?」

梓「……私たちの目的忘れてませんか?」

唯「忘れてるわけないよ!」

 っていうか、私なんだもん。
 この街の高いところから、明けていく街を見下ろしてみたいなんて言い出したのは。



58 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/15(日) 04:35:24.64 ID:a7m7L0Ev0
 昨日の帰り道のことです。
 あずにゃんとふたりっきりになった時にこう聞かれました。

  梓『唯先輩、みなさんってこれから毎日勉強会なんですか?』

  唯『そうだよ、だって受験生ですもん!』

  梓『…わき目もふらず、ギターにもさわらず?』

 あの時も変にするどいあずにゃんでした。
 しょうがなく私は白状します。

  唯『ギー太は、ちょっと夜中にかまってあげたりしてるかな・・・・てへへ』

 受験生なんだけど、やっぱ身体が覚えちゃってるんだよね。しょうがないよ、うん。
 あー…あずにゃんに引かれたかな、ってそのときは落ち込んでました。

  梓『はぁ…そんなことだろうと思いました。ちゃんと勉強もしなきゃダメですよ?』

 やっぱり注意されちゃいました。めんぼくないな、私。
 でも、そういうあずにゃんはなぜかちょっとうれしそうでした。




61 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/15(日) 04:40:25.27 ID:a7m7L0Ev0

  梓『でも、学園祭のライブのことも忘れないでくださいね?』

 そのとき私に見えた夕焼け色のほほえみは、どこかさみしそうでした。
 そっか……最後のライブだもんね。
 それでうれしそうだったんだね、あずにゃん。

  唯『大丈夫だよ、みんなとやる最後のライブ、絶対成功させるからね!』

 言い切って、Vサイン。
 あずにゃんはくすっと笑って、そしたら勉強の方を忘れそうですね、なんて言ってた。
 本当にそうなりそうで今もちょっとこわい…。




63 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/15(日) 04:46:06.28 ID:a7m7L0Ev0

  唯『じゃあ、また今度ね!』

  梓『……あの』

 別れぎわ、私はあずにゃんに呼び止められます。
 空はもう赤から青に変わり始めていて、家々の明かりがぽつぽつもれ出す頃でした。

  梓『一日ぐらい、気晴らしにどっか出かけませんか?』



64 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/15(日) 04:51:06.69 ID:a7m7L0Ev0

 わーお……あずにゃんの方からデートのお誘いです!
 昼間の暑くてだるい空気が一瞬で変わった気がしました。
 なんだかあずにゃんの言葉が冷たくて甘いもののように感じます。
 もしかして、あずにゃんの前世ってアイス?

  梓『なんか変なこと考えてませんか? 唯先輩』

 変な目でみられちゃった。

  梓『憂が「お姉ちゃんをどっかに連れてってあげて」って言ってたんです』

 私は勉強の邪魔だからって言ったんですけど、なんて言うあずにゃんがなんかわざとらしくて、

  梓『ひとが真剣に話してるのになに笑ってるんですかっ』

 ……また怒られちゃった。

  梓『それで唯先輩、なにか見たいものとか行きたいとことかありますか?』



65 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/15(日) 04:57:07.82 ID:a7m7L0Ev0

  唯『でもあずにゃんとデートかぁ……うーん、もうちょっと悩んでいい?』

  梓『デートとか言わないでください! 気晴らしに二人で出かけるだけなんですから』

 なんか恋人みたいで恥ずかしいですよ……あずにゃんはうつむきがちにつぶやいていました。
 いいじゃん、一日ぐらい。……恋人に、なってもいいならさぁ。


 デートに誘ってくれたのは、ほんとうにすっごくうれしかったです。
 でも、夏休みはぜんぶ夏期講習か勉強会にするって決めていました。
 受験生だから勉強が第一です。勉強以外のことは考えない方がいいって、澪ちゃんも言ってたもん。

 それに……なんだろ。
 あずにゃんといると離れられなくなりそうな気がして、ちょっと怖かったのかも。



66 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/15(日) 05:02:08.35 ID:a7m7L0Ev0

 私はちょっと考えて、一緒に日の出を見に行こうって誘ってみました。

  梓『またずいぶん予想外ですね……でも、なんでですか?』

  唯『ごめんね、一日中開いてる日はたぶん難しいんだ。だから、せっかくだし家の近くできれいなもの見たいなって』

 一年ぐらい前、軽音部のみんなで初日の出を見に行ったのを思い出します。
 あの時もあずにゃん、耳つけっぱで可愛かったな……。

  梓『……わかりました。じゃあ、ちょうどいいとこがありますよ』

 えっ? 初日の出のとき行ったあそこじゃないのかな。

  梓『秘密の場所なんです。……まだ行けるかわかんないけど、すごく見晴らしがいいんですよ』



67 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/15(日) 05:07:08.88 ID:a7m7L0Ev0
梓「唯先輩、着きましたよ」

 昨日のことを思い出していたら、いつの間にか知らないところに着いていました。
 目の前に建っているのは、住宅街から少し離れたところにある古びたビルです。
 雨風にさらされて少し塗装のはげたそのビルは……なんだろう、人を寄せ付けない感じがします。
 澪ちゃんが見たら怖がりそうかも。

唯「え……ここなの?」

梓「小学生のころ、この近くに住んでたんです。そのときこのビルの最上階でたまに景色とか見てたんです」

唯「友達とみんなで?」

梓「いや……ここに来るときはいつも一人でした。でも、本当の親友とか大事な子だけは内緒で連れてってあげたりしてたんです」

 なんてったって、秘密の場所ですからね――いたずらっ子みたいな笑みを浮かべるあずにゃん。
 でもそこに連れてきてくれたってことは……

梓「ああもうなんでもないです! 早く行きましょうよ」

 そう言ってずかずかとビルに入っていくあずにゃん。
 私は慌てて自転車をとめ、降りるときに自転車を倒しそうになりながらも追いかけます。

梓「もう、こっちですよ?」

 エレベーターの中であずにゃんが手招きしてました。まねきあずにゃん、なんちゃって。

梓「……変なこと考えましたよね」

 ええっ、なんで分かるの?!



68 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/15(日) 05:12:39.29 ID:a7m7L0Ev0
梓「唯先輩の考えてることぐらい分かりますよ」

唯「ねぇあずにゃん、私ってそんなに分かりやすい?」

梓「うらやましくなるぐらい分かりやすいですけど」

 あずにゃんがエレベーターでR階のボタンを押すと、ドアが閉まりました。
 二人っきりの空間。……って、変な意識とかしなくてもいいのに、私。

 私はエレベーターの手すりにもたれかかって、なんとなく天井を見上げます。
 室内照明と、人が一人通り抜けられるぐらいの作業用の小さな扉だけがある、殺風景な空間です。
 ここに何時間もいたいとはちょっと思えません。

梓「このエレベーター、夏場はすごく蒸し暑くなるんですよ」

唯「へー…なんで?」

梓「空調設備がうまくきいてないんじゃないですか? 誤作動とかも多かったらしいですし」

唯「ふーん」

 っと、着きました。




69 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/15(日) 05:17:39.83 ID:a7m7L0Ev0

 エレベーターから出ると、下への階段とドアが一つ。
 なんだか床がほこりっぽいので、早く外に出たいです。
 あずにゃんはドアノブを上下にがちゃがちゃやって、下の方をごつんと少し蹴っていました。

梓「ここをこうすると開くんですよ、無用心極まりないですよね」

 すごい、本当にドアが開いた!
 私はあずにゃんが持つドアから勢いよく屋上に飛び出しました。
 やったあ、一番乗り!

梓「あっ、そこ階段になってて危ない…!」

唯「えっ――きゃっ」

 どてん。
 思いっきり転んじゃった……。




71 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/15(日) 05:22:31.09 ID:a7m7L0Ev0

唯「ったあ…!」

梓「まったくもう、人の話きかないからですよ」

 うう……ぶつけたひざがちょっと痛いです。
 キズにはなってなくてよかったけどね。

 気を取り直して立ち上がり、私は空を見上げます。

唯「うわあ……なんか空が近い…!」

 相変わらずくもったまんまでしたが、その分やわらかそうな雲が視界ぜんぶを満たしていました。
 雨や雲が好きって言ったらりっちゃんが変な顔してたけど、なんだか包み込んでくれそうな雲も冷たい雨も嫌いじゃないんだよね。

 私は屋上の向こう側に走り寄りました。
 そこには――私たちの住んでる町がミニチュアのように広がっていました。
 夜が明けてもまだ点いたままの街頭が星のように見えて、
 でも車やバイクの音が高速道路の方から少しずつ聞こえて、
 なんだか街そのものが朝になって目覚めようとしているみたいですごくドキドキしました。



72 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/15(日) 05:29:47.93 ID:a7m7L0Ev0

梓「ここ……すごいですよね」

唯「そうだねぇ」

 フェンスの網目の隙間に広がる街を眺めていたら、いつの間にかあずにゃんが居ました。

梓「高台で他に高い建物もなくて、街全体がこうして見渡せるんですよ」

唯「なんだか二人だけで、飛行船に乗ったみたいだね」

梓「……唯先輩らしい考えですね」

 隣にいたあずにゃんが、くすくす笑っていました。
 すぐそばでフェンスの網目をにぎる、小さな手。
 私はそこに自分の手をなんとなく添えてみます。
 その手はほんの少しだけぴくんと揺れて、でもそのまま網目を握りしめていました。
 自分の手が、少しだけ汗ばんだ気がします。


梓「唯先輩」




73 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/15(日) 05:40:30.84 ID:a7m7L0Ev0
 ひとりごとのように私を呼んだあずにゃんに何かを言おうとして――何一つ言えません。

 あずにゃんは――なにかすがるように、フェンスの向こう側を見つめていました。
 私はそのとき、むかし憂と見た映画をなぜか思い出しました。
 愛し合う二人が人種の差に引き裂かれ、離れ離れにさせられながらも求め合う……そんな話だったと思います。

 映画の中で国家警察に連れ去られていく女の人の諦めたような諦め切れないような顔。
 すぐ隣のあずにゃんにその顔を見出してしまって、怖くなって手を握り締めました。

 ――離れないで。そばにいて。ずっと抱きしめさせて。
 ――でも、ダメだよ。
 ――私たちは付き合ってはいけないんだ。

 映画の台詞が、なぜかずっと頭の中に響くのです。

《答えは二人とも分かっていて、けれど口に出したら終わってしまうんだ。》

 あの映画は、私とあずにゃんのことを言っていたんでしょうか…?
 そんなことをしばらく考えながら、私は何も言えずに手を握っていました。



74 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/15(日) 05:51:45.70 ID:a7m7L0Ev0
梓「曇ってて見れなかったし、そろそろ帰りましょうよ」

 突然、振り切るようにあずにゃんが立ち上がりました。

唯「えっ――あずにゃん、まだ六時にもなってないしもうちょっと居ても…」

梓「こんな時間に変なとこに連れ出してすいませんでした。唯先輩も家に帰って、勉強会まで仮眠取ったらどうですか?」

唯「……うん」

 立ち上がって距離をとったあずにゃんを、いつものように抱きしめようとして――なぜかできませんでした。
 あずにゃんはあずにゃんなのに、私とあずにゃんの間に見えないカベがあるような気がして。

 フェンスの手を離した瞬間から急速にあずにゃんが離れていくようで、
 あの映画の女の人がひたすらフラッシュバックして、
 せめて繋ごうと伸ばした私の手も、空に浮かべたまま動かせずにいたんです。

唯「そうだね、帰ろっか」

梓「受験勉強がんばってくださいね」

唯「仮定法が難しいんだよね、英語とか」

梓「授業ちゃんと聞いてたんですか?」

 ありあわせの言葉で場の空気を埋めてみたって、はめこんだそばからこぼれていくような。
 そう思うと自分がどうしようもなく無力に感じました。
 いつしか蝉の声が響きだし、少しずつ暑くなっていきます。
 私は太陽が雲に遮られているうちに、ドアの中へと戻りました。




75 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/15(日) 05:58:48.51 ID:a7m7L0Ev0
 気まずい空気のまま、私たちはエレベーターに乗り込みます。
 メールでも見ようと思って携帯を開くと圏外になっていました。
 誰かの送る電波すら届かない、二人っきりの場所。
 なのにあずにゃんと私は違う人に感じて、狭い密室の中でも距離を感じていました。

梓「……唯先輩、ボタン押さないと降りられませんよ?」

唯「あ、そうだった。てへへ」

 いろいろ考えごとしてて忘れちゃってた。
 私はあわてて1階のボタンを押しました。
 エレベーターが揺れだして、小さな引力を感じます。


 5階、4階と階数が下がっていったその時。
 突然エレベーターが音を立てて揺れ始めました。




78 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/15(日) 06:10:13.89 ID:a7m7L0Ev0
梓「きゃ…!」

 悲鳴を上げて私の肩に飛びつくあずにゃん。
 急に体重が掛かってよろめいた私はなんとか手すりにつかまります。
 エレベーターが振動で急停止しました。
 私はあずにゃんの肩をぎゅっと抱いて、揺れが収まるのを待ちます。

唯「……だいじょうぶ?」

梓「はい…すいません」

 揺れが収まった後もあずにゃんもしばらくそばにいました。
 ほっと息をついて、私の胸に少しもたれるあずにゃん。

唯「地震、だよね?」

梓「こんなところで起きるとは思いませんでした…」

 こわかったんだねー、よしよし。
 元気になってほしくて、わざとあずにゃんの頭を子供みたいになでてみます。
 ……なのに、あずにゃんはそのまま私にぎゅっとしがみついたままでした。

 正直、ひっぱたかれると思ってたのに。
 本当に怖かったんだ……変なことしちゃったな。
 私はもう一度、今度は本当にあずにゃんの小さな頭をそっとなでなおしました。
 なんとなく、申し訳ない気分です。




79 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/15(日) 06:16:19.89 ID:a7m7L0Ev0
梓「もう大丈夫です、取り乱してすみません」

唯「いーのいーの! あずにゃんは泣かない強い子だねぇ」

 もう、子供扱いしないでください。
 そう言ってむくれたあずにゃんを見て、ようやく安心できました。

唯「あ、じゃあうちでちょっと休んできなよ! いろいろあって疲れたでしょ?」

梓「そうですね。でも、突然押しかけて大丈夫なんですか?」

唯「うち今日、憂しかいないもん。あずにゃんだったらきっとよろこんでくれるよ!」

梓「いや、朝ごはんの支度とか……もういいです、行きますよ」

 やっと自然にあずにゃんが笑ってくれました!
 こっちも落ち着いたら、なんだかワクワクしてきちゃったよ。
 あずにゃんと憂と、三人で朝ごはん! はーやく食べたいなっと。
 私はエレベーターの1階のボタンをもう一度押しました。

唯「……あれ?」




80 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/15(日) 06:23:41.90 ID:a7m7L0Ev0
 ボタンの「1」のところのランプが点きません。
 おっかしいなあ……もう一回、ぽちっとな。
 ダメでした。

梓「ちょ…どうしたんですか? 唯先輩」

 後ろから不安げな声が聞こえます。
 私は何度もボタンを押しましたが……ぜんぜん動く気配がありません。

 胸の奥に、いやな熱がともるのを感じました。
 心臓が変にドクドク言ってる気がして怖くなります。
 このまま――いや、そんなはずないよ。大丈夫だよ。
 っていうか出ちゃえばいいよね、階段で行けばいいじゃん。
 無理やり言い聞かせて、今度は「開」のボタンを押しました。
 ボタンは……点きませんでした。

 めまいを覚えました。


唯「……あずにゃん」

梓「なんですか? どうしたんですか、唯先輩?!」

 これ以上あずにゃんを怯えさせたくなかったのに。
 言いたくなかったけど、私は伝えました。


唯「……エレベーター、動かない」




85 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/15(日) 08:00:16.14 ID:a7m7L0Ev0

【2010年08月15日 8:00/桜ヶ丘高校 図書室】

澪「唯、遅いな…どうしたんだろう」

律「寝坊でもしたんじゃねーの? 唯ってそういうキャラじゃん」

 そう言って澪の不安をわざと茶化してみる。
 本気でそうは思ってないけど、胸の奥に変なものを残すのはいやだったから。
 私は澪と片耳だけ入れたイヤホンが外れないように気をつけて鞄からチョコレートを二粒つまみ出す。
 一個は私の口に放り込み、もう一つは澪の口元に持ってく。

律「ほら、ストレスにはポリフェノールでしゅよー澪しゃん」

澪「あのな……まがりなりにも学校の図書館だぞ? 今は私と律しかいないけど」

 えーいいじゃん別に。誰も見てないんだぜ?
 受験生向けに図書室が開放されてるってったって、日曜の朝も使ってるのはほとんど私たちだけなんだし。

澪「そう言ってこないだポッキーの袋落としてバレたんだろ、学習しろ」

律「澪って誰も見てない赤信号で止まって遅刻するタイプだよな」

澪「信号も見ないで突っ走ってひかれそうな人に言われたくない。ってか、遅刻は唯だろ?」

 言ったそばから澪の唇が私の指からチョコをぱくっと奪い取った。なんだ、結局食べるんじゃん。
 てーか話戻っちゃったし。ちぇ。



88 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/15(日) 08:04:57.17 ID:a7m7L0Ev0
律「……ほら、今日って変な天気だし傘とか取りに戻ったんじゃないのか?」

 言ったら妙に天気が気になって、なんとなく澪の背後の窓に目を向ける。
 もやもやした雲が空を覆っていた。熱帯夜で汗を吸ったシーツのような、そんなしけった雲。
 唯や梓は雨が好きって言ってたけど……私はやっぱ苦手だ、こういう日。

澪「そんなの唯は気にしないだろ。っていうか、律ぼーっとするなよ。手とまってる」

律「え? わりーわりー、だってこんな天気だとなんかアンニュイになってきちゃうじゃん?」

澪「律、アンニュイの意味わかってる?」

 澪が少し吹き出す。
 あっみおバカにしたなー、ゆるさんぞーっ。……ってな感じで場を持たせとけばいいかな。

律「うるせーし。だいたいアンニュイなんて言葉知ってるから澪とか梓はアンニュイになるんだよ」

澪「梓? ……ああ、そうかもね」

 うわ、墓穴掘った。りっちゃん不覚。
 昨日の話は持ち出さないって決めてたのに。



89 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/15(日) 08:10:57.68 ID:a7m7L0Ev0
澪「……勉強しよ」

律「そうだな、受験生だしな、よく忘れるけどさ」

 澪はなにも言わずに私のMDプレイヤーからイヤホンを引き抜いて、自分のiPodに差し替える。

律「あっボヘミアンラプソディまだ聞いてたのに! こっから展開変わって盛り上がるんだぞ?!」

澪「勉強には向かないんだよ」

 機嫌悪いなー。っていうか、なんか話すの避けてる?
 まあ、人のこといえないけど。
 それから澪が再生したのはシガーロスの三枚目だった。Hoppipollaとか入ってるやつ。いや、嫌いじゃないけどさ……

律「これ、眠くならないか?」

澪「まだ勉強とか図書室とかに合ってるだろ。うるさいのはやだ」

 ああそうですか。
 フレディ、あの世で泣くぞ?




90 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/15(日) 08:16:58.07 ID:a7m7L0Ev0

 それからほんの数分はペンを走らせていられた、と思う。
 私と澪はそろって世界史選択で、今は前近代のラスボスこと中国死、もとい中国史を復習していた。
 もう中国史だけは死ぬ。漢字で死にまくる。
 細かい年号の暗記から世界史に逃げ込んだってのにさ。
 つーか「かんがん」とか「てんそく」とか書けるJKいるのかよ?

澪「ひらがなで答え書いてるといつまでも覚えられないぞ」

 ……いたし。目の前に。裏切られたし。

律「あーもう! 天気悪いし唯来ないしムギはフィンランドだし、やる気ぜんぜん出ねえ!」

澪「いつものことだろ、まったく…」

 あーだめだ。勉強スイッチ完全に切れたわ。



91 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/15(日) 08:22:58.42 ID:a7m7L0Ev0
 ちまっこい漢字を書いて覚えるのにうんざりしてきたから、しばらく音楽に耳を傾けていた。
 マイブラとかライドにも似た、澪いわく「ひたすら別世界に行けるような」曲調。
 透明な空気をそのまま音にしたようなギターサウンドと、大地を駆け抜けるようなドラミング。
 聴き入っているだけで行ったことも見たこともないアイスランドの景色が浮かぶ。
 ……のだ、そうだ。澪が言うには。
 まあ私はもっとロックロックした曲のが好きだけどさ。クイーンとか。

律「シガーロスのボーカルって、ゲイらしいよ」

澪「……知ってる。それが?」

律「いや…意味はないけど。ただなんか……どっかのバンドマンが言ってたよ」

澪「なんて?」

律「同性愛者とか、性的マイノリティの生み出す楽曲はどうしようもなく素晴らしい、ってさ」

 ボールペンを止めて澪が顔を上げる。はたかれると思ったら冷たい目を向けられて、言葉に詰まった。

律「…いや、勉強するってば」

 私、逃げ足速いな……。



92 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/15(日) 08:28:59.10 ID:a7m7L0Ev0
澪「唯、遅いな……。八時半になるのに、メール一つ来ないなんて」

 五分ほど勉強を続けてた澪もさすがに手を止めてつぶやく。
 同じこと考えてたらしい。さっきの話とは関係なく。さすが幼なじみ。
 ふと、メールでも来てるかもしれないと思って携帯を開く。
 ただいまの時刻、8時28分。新着メール、なし。

律「まさか。唯のやつ、まさか通学中に国道から不意に走ってきたトラックの――」

 私の深刻そうな顔に、澪も思わず顔をひきつらせる。
 胸の奥によぎった悪い予感をそのまま告げるべきか、一瞬迷った。
 本当のことを言ったら、澪を傷つけてしまうかもしれない。
 けれど――言うしかないんだ。

律「――トラックの運ちゃんに道聞かれて車乗って道案内してたりしてー!」

 ぽかっ。
 本日一発目、いただきました。いてー!




93 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/15(日) 08:34:59.62 ID:a7m7L0Ev0

澪「あったけど! そんな話もあったけどさ! 今はそういう話をしてるんじゃない!」

 そうそうあったよなあ、二年の時だっけ。
 トラックの運転手に搬入先のデパートまでの道を聞かれて、そのまま乗り込んで道案内して高校に遅刻したのって。
 唯いわく、「デパート前のバス停でバス乗れば間に合うと思ったんだけど、お財布忘れちゃったんだよねえ」と。
 どんなお人好しだよ。いや、唯のそういうとこ割と好きなんだけどさ。

 ってそんな話じゃなかった。ごめん澪。唯のことだよな。

澪「そういえばあのデパート、最近つぶれたらしいぞ? 不況のあおりって怖いな」

 えっ、そっちの流れなの?



94 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/15(日) 08:40:59.99 ID:a7m7L0Ev0

 そうして唯のことを気にかけつつもチョコレートをほおばって澪と近所の商店街の衰退を嘆いてた頃、扉の開く音がした。
 私は慌ててMDプレイヤーを右胸のポケットにしまってチョコレートの袋を鞄に押し込む。

憂「こんにちは、お勉強のお邪魔でしたか?」

 なんだ憂ちゃんか、先生かと思ったよ。

澪「いや、邪魔は律からさんざんされてたから気にしないよ」

 おい。

律「あ。そうそう憂ちゃん、唯のことなんだけど――」

憂「お姉ちゃん、トイレですか?」




96 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/15(日) 09:03:30.37 ID:a7m7L0Ev0

澪「えっ? 唯、まだ来てないけど」

 とたんに憂ちゃんの表情が曇る。
 あれ、唯と何かあったのか?

憂「……お姉ちゃんまだ来てないんですか?」

律「来てない来てない。あっもしかして唯のやつ、寝坊して憂ちゃんとケンカしたのか? そしたら」

澪「やめろ律。それで唯のことなんだけど」

憂「お姉ちゃん、朝の四時半に梓ちゃんと出かけたっきり戻ってきてないんです」

 言葉を失った。
 窓の向こうで、蝉の音が悲鳴のように強く聞こえ出した。



98 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/15(日) 09:09:30.21 ID:a7m7L0Ev0

澪「……おい、律」

律「分かってる。ちょっと落ち着こうって」

 落ち着こう、なんて口に出してしまうぐらい私も落ち着いちゃいなかった。

憂「お姉ちゃん、何かあったんですか?」

 私たちの不安はすぐに憂ちゃんにも伝わる。
 居ても立ってもいられず、かといってどこにも行けないような、そんな焦燥感。
 それは次の言葉を見つけられないでいる私もたぶん一緒で。

澪「私も律も居場所までは分からないんだ。憂ちゃん、唯は梓と一緒にいるのか?」

憂「お姉ちゃんは、梓ちゃんと日の出を見に行くって言ってました!」

 ひ、日の出?
 唯らしい訳わかんない発想だな…。

澪「でも、それだったら今日曇りだし早く家帰ったり学校来たりしててもおかしくないよな」

 澪の言葉が不安を増幅させる。
 たぶん私はトラックとか縁起でもないこと考えてたせいで、変に杞憂してるだけなんだ。
 そう言い聞かせて落ち着けようとする。
 本当に気にかかってるのは別のことだったけど。




99 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/15(日) 09:15:00.76 ID:a7m7L0Ev0

律「憂ちゃんの方にもメールとか電話とか来てないのか?」

憂「音沙汰ないです、梓ちゃんにも電話したんですが圏外みたいで――」

 その瞬間、私の右太ももで携帯が振動しだす。
 すぐに手を突っ込んで取り出す。

《着信 平沢唯》

 考える間もなく通話ボタンを押して携帯を耳に当てた。

澪「おい律、誰からかかってきたんだ?!」

律「ちょっと静かにしてろ! いま唯から――」

梓『り、律先輩ですか!? 私です!』

律「どうしたんだよ梓、唯はそこにいるのか? みんな心配して」

梓『エレベーターに閉じこめられてるんです、私たち!』

律「は?」

 ……は?
 ええっ?!




100 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/15(日) 09:20:31.17 ID:a7m7L0Ev0
梓『五時過ぎぐらいに地震ありましたよね? それでエレベーター止まっちゃって出られなくて、やっと電波つながったと思ったら』

律「落ち着け梓、今どこにいるんだ?」

梓『えっと……これ〈ピーッ〉明しま〈ピーッ〉助けをよんd』

律「おい、電波大丈夫か?!」

 私の声は梓に届かず、通話は切れた。

憂「お姉ちゃんどうしたんですか、何かあったんですか?!」

 血相を変えた憂が詰め寄ってくるけどそれどころじゃない。
 私は梓にリダイヤルする。
《お掛けになった電話番号は、現在電波の――》
 もう一度。
《お掛けに――》
 くそっ! なんでつながんねーんだよ!



103 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/15(日) 09:31:09.84 ID:a7m7L0Ev0
澪「おい律、状況をまず説明して――」

律「今それどころじゃない!」

 ああもう、澪に当たってどうするんだよ私。
 梓へのリダイヤルをあきらめて、唯にも掛けてみる。
 だが、唯への電話も自動音声に遮られた。

 全身の力が抜けた。
 携帯を机に放り出して、椅子に身体を投げ出した。
 投げつけた衝撃で携帯が、倒れた人のように開く。……縁起でもない。



105 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/15(日) 09:36:38.05 ID:a7m7L0Ev0
澪「律、落ち着けよ。何があったんだ?」

憂「お姉ちゃんは無事なんですか?」

 顔をのぞき込む心配性二人。
 だけど、さっきの私はそれ以上に動揺してたと思う。
 こんなんじゃ私が落ち着かないでどうする。

 深呼吸を一つ。
 身体の奥から不安を吐き出すように、念入りなやつを。
 そうして、私は二人に電話の内容を告げた。

律「澪、今日の勉強会は中止だ。二人がどっかのビルのエレベーターに閉じ込められてる。場所は分からない」

 目を見開き、青ざめた顔が二つ。
 みるみる血の気を失っていく。

律「みんな、落ち着こう。とりあえず先生たちに伝えて、唯たちの行きそうな場所探してみようぜ!」

 投げ出した携帯電話を右側のポケットに入れて、無理やり明るい声で呼びかけた。
 まだ動揺しっぱなしの澪を見たとき、窓の外が目に入る。
 灰色の雲を見ているといやでも不安が膨らむから……私は思わず目をそらした。



106 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/15(日) 09:43:58.07 ID:a7m7L0Ev0

【2010年08月15日 9:43/Nビル構内】

梓「これから場所を説明しますから、助けを呼んでください!」

 言い切る間もなく、唯先輩の携帯の電池が切れた。
 一瞬、電話が繋がったときには喜んだけれど結局たいしたことを伝えられずに切れてしまった。
 もしかしたら、相手が律先輩だったからかもしれない。
 あの話をしてから、心の底で先輩に引け目を感じていたから。

唯「どうだった、りっちゃんと話せた?」

梓「はい。でもすぐ切れちゃって、場所が伝えられなくて……」

唯「閉じ込められてるのは伝わったんだよね? じゃあ大丈夫だよ!」

梓「でも、場所がわかんなかったら助けに行きようが…」

唯「それでも、誰かが見つけてくれるよ。だって今日いて座が1位だったもん!」

梓「あはは……」

 笑顔で根拠なく言い切ってしまって、思わず力が抜ける。
 でも、気持ちが押し潰されそうな密室の中ではそんな唯先輩が頼もしく見えた。



107 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/15(日) 09:50:50.82 ID:a7m7L0Ev0
唯「まああずにゃんも、のーんびり助けを待ってようよ」

梓「……そうですね」

 私が言うなり教科書の入ったカバンを枕にして、床に寝っころがる唯先輩。
 いや、それはさすがにリラックスしすぎなんじゃ……

唯「そのぐらいの方がいいんだよ。ってかさっきのあずにゃん、めっちゃ慌ててたもん」

梓「私なりに落ち着いて伝えようとしましたよ!」

唯「地震起きたの、六時だよ?」

 あ…そうだっけ。

唯「ほらぁ、あずにゃんパニクってるじゃん」

 得意げな顔を向けられた。
 この人、事態の深刻さ分かってるのかな……?

梓「ていうか唯先輩はなんでそんなに落ち着いてられるんですか!」

唯「だって、あずにゃんが一緒だもん」




110 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/15(日) 10:06:59.54 ID:a7m7L0Ev0
 えへへ、って愛くるしい笑顔を浮かべてそれとなく手を握る唯先輩。
 こんな時、いつもどうしていいか分からなくなる。
 私の心の奥底に、あまりにもすんなり入ってきてしまうから。

 私が「練習しよう」とか「もっと真面目な部活に」って構えてる時だって、気づくといつも唯先輩のペースに乗せられてた。
 アイデンティティをかけて必死で立てたバリケードなのに、唯先輩はたやすく隙間をぬって侵入してしまう。
 そして気づくとぎゅってされてて――

 ……いつしかバリケードの中で、唯先輩を待ちわびるようになってたんだと思う。

唯「私もね、一人だったら不安でたまんなかったと思うよ」

 私の目をじっと見つめて、唯先輩が話す。なんか、どきどきする。

唯「でもあずにゃんが居るから、大丈夫そうな気がするよ」

 私はギー太とアイスとあずにゃん分があれば生きていけるからね!
 そう、言い切られてしまって、居心地がわるくなって思わず目をそらす。

梓「……ギターより受験勉強をしてください」

 あはは、そうだよね。私、忍耐力ないからさ……弱いもん、うん。
 そう言って唯先輩は困ったように笑った。
 本当は思ってもいないバリケードを立ててはまた逃げようとしてしまう自分は、確実に唯先輩よりも弱い。



113 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/15(日) 10:25:32.33 ID:a7m7L0Ev0
 五時――じゃなかった、六時の地震で閉じ込められた時は唯先輩もさすがに動揺してた。
 ていうか唯先輩、自分を責めまくってた。
 ごめんね、私が変なこと言い出したからだよね、ごめんねあずにゃん、って。
 思わず私は「唯先輩のせいじゃないです、事故だからしょうがないですよ」なんてなだめていた。

『先輩をこんな危ないところに連れてきたのはあなたでしょ』

 聞きたくない自分の声をかき消すために、つい唯先輩は悪くないなんて言い方をしてしまう。
 その度に、声を上げるたびに、自分の中に変な熱が溜まっていくのを感じていた。
 やがてその熱はこの部屋に充満し、唯先輩を押し潰してしまうのかもしれない。
 私のせいで、唯先輩が。

  唯『あずにゃん、どしたの? こわい顔してるよ』

 そうやって一人で思いつめてたときも、唯先輩が引き戻してくれた。

  唯『なんかこうしてると合宿みたいだよね!』

 ふきだしてしまう。
 いつの間にか、私が助けられる側に回ってた。……いや、最初からかな。

 甘えてばっかだ。落ち着きなよ、梓。
 自分の心に自分で言葉の刃を向けて、他人から傷つけられる前に先手を打つ。
 これも昔からの癖だった。




115 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/15(日) 10:35:30.49 ID:a7m7L0Ev0
 しばらくして私も唯先輩も落ち着いた頃、唯先輩が突然言い出した。

  唯『あずにゃん、あずにゃん! あの非常ボタン押してみてもいい?!』

  梓『は……はぁ?』

  唯『ほら、ああいうボタンってふだん押しちゃいけないじゃん? ねぇ私が押してもいいよね?!』

 レストランで注文ボタンを押したがる子供みたいに唯先輩がはしゃぐ。
 っていうか、そのものだった……。

  梓『いいですよ、押してください』

 なんだかほほえましくて自然と口元が緩んでしまう。

  唯『終わったら次、あずにゃんの番だよ! 繋がるまで続けるからねっ』

 なんていうか……軽音部入ってから私、こんな気持ちになること増えたかも。



116 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/15(日) 10:47:48.03 ID:a7m7L0Ev0
 はじめ唯先輩は非常ボタンを押し続けることを知らず、一回押しては私と交代しようとした。

  梓『いや、ここに書いてあるじゃないですか。押し続けるんですよ』

  唯『ええー…指疲れそうだなあ』

  梓『ギタリストがそれ言いますか…』

 それから唯先輩はしばらく押し続けた。
 けれど……一向に管理会社に繋がらなかった。

 私も心の底ではあの小さな黄色いボタンにすがっていた。
 外界に私たちの存在を知らせてくれて、やがて助けを呼んでくれるはずだと。
 でも実際は、七時ごろからずっとボタンを押し続けているのに何の音沙汰もなかった。

  唯『私たち、見捨てられちゃったのかな…』

 肩を落とす唯先輩。
 私は心の中で管理会社に逆恨みと八つ当たりをぶつける。



117 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/15(日) 10:57:26.42 ID:a7m7L0Ev0
 そうして外の世界から完全に遮断された私たちは、エレベーターの床に座り込んだ。
 ここのエレベーターには足元に赤の薄っぺらいカーペットが敷いてある。
 それに気をよくした唯先輩はさっそくカバンを枕に床に寝転がった。

  唯『なんかこうしてる家みたいだなぁ…ういー、あいすー。なんちゃって』

  梓『憂の苦労がうかがい知れますね…』

 言ってはみたものの、私だけ律儀に立ってるのもばからしく思えて、結局自分のカバンの上に座った。

  唯『あーあずにゃんジベタリアンだー、お行儀わるーい!』

  梓『床で寝てる人に言われたくありません!』

 そんな、一瞬いま事故に遭ってるってことを忘れてしまうような。
 一緒に居る相手が唯先輩じゃなかったら……こうはならなかったと思う。



118 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/15(日) 11:08:38.40 ID:a7m7L0Ev0
 結局私も根負けして、唯先輩と一緒に寝転がった。

 カバンを枕にして、仰向けになる。
 カーペットの縫い目を指でなぞったり、太ももに当たるカーペットの感触を押し当ててみたり。
 見ると天井はやけに低く感じて、煤けた照明が私たちを押しつぶそうと迫ってくるようで……気持ち悪くなる。
 そこで思わず目を逸らすと……唯先輩と目が合った。

  唯『えへへ、二人っきりでお泊りみたいだね』

  梓『……変なこといわないでください』

 変な気分になるじゃないですか。手とかつながないでくださいよ、本当。

  梓『そうだ、もう少しだけ携帯つながるか試してみましょうよ』

 今にして思うと、自分の気持ちをそらすために言ったんだと思う。



119 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/15(日) 11:22:07.99 ID:a7m7L0Ev0
 結局、電話は律先輩に一瞬繋がったものの――振り出しに戻っただけだった。
 いて座が一位だったら、私のさそり座は何位だったんだろう。
 唯先輩と一緒にいれてるから五位ぐらいかな?
 っていうかその占い、絶対アテになんないな……。

唯「ねーあずにゃん、なんか楽しいことしよ?」

梓「じゃあ……音楽でも聴きますか?」

 自分の腰掛けていたカバンからウォークマンを取り出す。

唯「うん! ……って、それって最新機種?」

梓「そうですそうです、ノイズキャンセリング機能もついてるんですよ!」

唯「へー、なにそれ」

梓「自分の聴きたくない騒音とかを消せるんです」

 すると唯先輩はうなってしまう。
 そこまでして消したい騒音ってどんなのだろう、なんて悩んでしまった。

梓「例えばほら、人の話し声とか電車の音とかいろいろあるじゃないですか」

 ……言った後で、気づいた。
 唯先輩は何でも楽しめるから、騒音なんてないのかもしれない。
 雨音にあわせて歌っていたような人だったっけ。うらやましいな。
 そう考えると、自分の聞きたくない音をシャットアウトする私が急にみすぼらしく感じた。



120 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/15(日) 11:33:31.35 ID:a7m7L0Ev0
梓「適当にシャッフルして流れたのでも聞いてみましょうか」

唯「そだね。どんなのだろ」

 目をつぶって適当にボタンを押して再生させる。
 印象的なディストーションギター、後に入ってくるドラム、はじめは小さくやがてうなりを上げるベース。
 ファルセットの利いたボーカルが歌いだす。

唯「おお……なんかカッコイイ! ねえなんて曲?」

 しかしよりにもよって、こんなときにこんな曲だなんて。
 苦い笑いがこみ上げる。なんて皮肉だろう。

梓「……ミューズの、ストックホルム・シンドロームって曲です」

 シャッフル機能はたまにこういうことをしてくれるから困る。

唯「それってどういう意味?」

梓「ストックホルムで銀行強盗があって、人質がしばらく監禁されているうちに犯人のこと好きになっちゃった事件があったんです」

 そんな風に、極限状態で人の気持ちが変わっちゃう、っていう心理学の用語をテーマにした歌だと思います。
 唯先輩にそう説明した。
 
 ……いまここでこの曲はないよ、やっぱ。



122 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/15(日) 11:48:26.84 ID:a7m7L0Ev0
唯「あ、それって憂が同じこと言ってたよ! つり橋効果ってやつだよね?」

梓「似てるようで全然違います…」

 ストックホルム症候群はもっと悪い意味で使うんですよ、たぶん。
 わざと閉じ込めてたりとか、よくない関係だったりとか。
 ……気持ちを変えることで、身を守ってるだけだから。
 自分のことしか考えてないだけだから。

唯「ねぇ、私たちってストックホルム症候群なのかな」

梓「……そんなこと、聞かないでくださいよ」

唯「ごめん、なんでもない! でもこの曲かっこいいね、りっちゃんとか好きそう」

 すぐに笑顔に戻った唯先輩。
 だけど、その三秒前の表情は忘れられそうもなかった。

 昨日まで憂や純のおかげでなんとなく決意できてたはずの気持ちが揺らいで、崩れ落ちそうになる。
 せめてこのドアが開いてくれたら……病気じゃない、まっとうな気持ちだって、言い切れるのかもしれないのに。

『まっとうなの? あんたが先輩に向けてる気持ちって、傍から見たら相当気持ち悪いんじゃない?』

 うるさいな。静かにしててよ。

  律『――気持ちは分かる。けど、これから先に傷つくのは梓だし、唯だと思う。だから……やめといた方がいいって』

 数日前に聞いた言葉が耳の奥で揺れる。
 傷つけたくない。傷つきたくないから。
 ……私は気づかれないように、唯先輩の身体に触れないように、そっと距離をとった。



134 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/15(日) 13:36:26.97 ID:a7m7L0Ev0

【2010年08月15日 13:36/児童公園】

律『さっきムギと合流した。唯たち見つかったか?』

 律からのメール。聞くぐらいだから、あっちも進展はないみたいだ。
 返信して、ベンチの隣の憂ちゃんに現状を伝える。

憂「あれ、紬さんって避暑に出かけてましたよね?」

澪「それどころじゃないだろ、今は」

 そうですよね、と憂ちゃんがか細い声で答える。
 私はカバンからチョコレートを取り出して――憂ちゃんに差し出すのはやめた。
 律からもらった個別包装のトリュフ、袋を開ける前から型くずれしてしまっていた。

澪「……えっと、食べる? ていうか、飲む?」

憂「もう溶けちゃってるじゃないですか」

 少し笑ってくれて、安心する。……なんか律みたいなことしてるな、私。



135 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/15(日) 13:42:27.35 ID:a7m7L0Ev0

 午前中に窓の外を覆っていた分厚い雲は跡形もなく消え、抜けるような青空からは直射日光が遠慮なく降り注いでいる。
 夏の日差しは私たちの影すらも奪おうとするほど強い。
 憂ちゃんと唯の行きそうな場所を巡っていた私もさすがにダウンして、公園の木陰のベンチに逃げ込んできたところだった。
 ふつう、「雨は悪い天気だ」と人は言うけれど。
 けれど体中の水分を根こそぎ否定するようなこんな日差しに当たっては、少しぐらい雨が降ってほしいなんてことも思ってしまう。

憂「この公園、小さい頃にお姉ちゃんと和ちゃ……和さんとよく来てたんです」

 ほら、あの水飲み場ありますよね? そう言って、公園の隅に設置されたものを憂ちゃんが指さす。

憂「あの蛇口を全開にして、数メートルぐらいの噴水にして水浴びするのが好きだったんですよ。お姉ちゃん」

澪「それって、後で怒られたりしないのか?」

憂「だからお姉ちゃん、公園に行くと怒られてばっかでした」

 昨日のことのように語っては、くすくすと微笑む憂ちゃんがかわいらしかった。
 ……唯、愛されてるなあ。



137 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/15(日) 13:49:34.80 ID:a7m7L0Ev0
憂「もしかしたら、梓ちゃんの方かも」

 公園の入り口の自販機で買ったポカリで喉をうるおしていたら、憂ちゃんがつぶやいた。

澪「どういうこと?」

憂「お姉ちゃんの行きそうな所じゃなくて、って意味です」

 なるほど。あれから半日近く唯の行動範囲をかけずり回って、それでも見つからないってことはそっちの線が濃そうだな。

澪「じゃあ、今度は憂ちゃんが知ってる限りで梓の講堂範囲を当たってみるか?」

憂「でも、梓ちゃんが知ってそうなところもほとんど巡ったんですよね」

 言われてみれば、そうだろうな……梓、唯か憂ちゃんかジャズ研の鈴木さんと仲良くしてるイメージしかないし。



142 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/15(日) 14:03:25.31 ID:a7m7L0Ev0
憂「私、梓ちゃんから相談受けてたんです」

澪「へぇ、どんな?」

 何も知らないみたいに聞き返してしまった。……恐らくあれのことだろうな。
 違うことを祈るけど、たぶんそろそろ逃げられない。


憂「――梓ちゃん、お姉ちゃんが好きなんです」

 ビンゴ。
 返す言葉が浮かばず、そうか、なんてズレたあいづちを返してしまう。
 言葉を探せば探すほど見えなくなって、夏の熱気でますます意識のピントがずれていく。

 気づくと公園で遊ぶ子供たちは誰一人居なくなっていた。
 どこか遠くのスピーカーが、迷子の子供の話をしていた。

 ふと思う。律だったらこんなとき、うまく場を切り抜けられるのかな?
 いや……無理だったんだろうな。
 こないだ、梓から話を聞いたときもそうだったらしいし。



146 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/15(日) 14:17:49.22 ID:a7m7L0Ev0
憂「……聞かないんですね、どういう“好き”かって」

澪「ごめん、律から聞いたんだ。それは憂ちゃんも知ってる?」

憂「その日に梓ちゃんから聞いたんです」

澪「……そうか」

 喉が瞬く間に乾いていく気がして、声もうまく出せそうにない。
 手に持ったポカリを口に持っていこうとするけど、それもしてはいけない気がして右手も動かせずにいた。
 なんとなく、左のポケットに入れた携帯電話に手を触れる。
 ほんの少し――液晶画面がやけに冷たく感じたけれど、すぐ私の汗で分からなくなった。

澪「梓の気持ちは、律から聞いてたよ」

憂「……澪さんも律さんも悪くないですよ」

 誰も悪くない。悪いって言う人が悪いんです。
 憂ちゃんはそう言い聞かせる。
 けど、それだと私たち全員「悪かった」ことにならないかな。
 梓が同性を好きになったことも、私たちがそれを止めたのも、憂ちゃんが応援したのも、
 唯が梓と同じ気持ちだったことも。



149 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/15(日) 14:39:49.42 ID:a7m7L0Ev0
憂「それに、梓ちゃんの背中を押すかは私も迷ったんです」

澪「……気の迷い、男との出会いがないから勘違いしてるだけ、そのまま付き合っても世間はまず認めない」

 赤の他人は変わったものをすんなりとは受け止めない。
 「常識」はこの空の直射日光みたいに、驚くほど間単に異物を焦がしていく。
 それでもみんな、たとえば雨よりも晴れた日の方が――変わったものを簡単に焦がしてしまう日差しの方が「普通」だと感じてしまう。

憂「全部考えました。お姉ちゃんと梓ちゃんの将来のこととかも。もしかしたら、私と澪さんの立場が逆だったかもしれないぐらいに」

 そう、律や澪が応援して、憂ちゃんが反対してた場合もあったはずだ。
 というより、もし建前だけで押し通せたなら私たちの立場は逆になってたと思う。

憂「私は、お姉ちゃんに幸せになって欲しかっただけなんです」

澪「……私も律も、そんなところだよ」

 何が二人にとって正しい、正しくないなんて考えてもいなかった。
 私たちは二人して、自分の気持ちを否定しただけだ。
 梓に「常識」を浴びせて、自分たちだけ日当たりのいい場所に逃げたんだ。



155 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/15(日) 15:20:29.04 ID:a7m7L0Ev0
澪「憂ちゃんはどうして唯を応援することにしたんだ?」

 話を変えようとする自分が嫌だったけれど、どうしても聞いておきたかった。
 憂ちゃんだって――傍から見ていても、唯に並々ならぬ感情を持っている気がしたからだ。

憂「和さんと話し合ったんですよ。お姉ちゃんの気持ちは本当なのか、って」

澪「和はなんて言ってたんだ?」

憂「……『それよりも憂、唯の気持ちを肯定したらあんたの唯への気持ちも危うくなるんじゃないの?』」

憂「って、言ってました」

 うわ……さすがに鋭いな、和は。
 私たちのことまで言われてる気がしたよ。

憂「ねぇ、澪さん」

澪「何?」


憂「……恋愛感情って、なんですか?」

澪「……ごめん。答えられない」

 答えられたら、最初から悩んでないよこんなこと。




156 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/15(日) 15:52:01.00 ID:a7m7L0Ev0
 日差しが緩まっていることに気づいて、空を見上げた。
 いつのまにか雲がまた空を覆い隠していて、今にも雨が降り出しそうな天気だった。

憂「とにかく今はお姉ちゃんたちを探しましょう」

澪「そうだな。こう暑いと、唯の身が危ないかもしれないし。早く探さないと」

 それは、私や律の問題先送り宣言にも聞こえた。
 それどころじゃないを言い訳にして、何回逃げてきたんだろう?

澪「……とにかく、日差しも弱まってきたしそろそろ行こうか」


 そんな矢先、耳慣れない着信音が聞こえた。
 憂ちゃんの携帯だった。



157 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/15(日) 15:54:35.07 ID:a7m7L0Ev0
憂「はいもしもし……えっ、純ちゃん? 今どこにいるの? ……ああ、おばあちゃん家だったんだ」


憂「……え? 梓ちゃんの行きそうな場所が分かるの?」

 えっ、見つかったのか?

憂「……うん、うん。わかった。この街ではあるんだよね? そう、たぶんそのこと言ってたんだと思う!」

 憂ちゃんの目が輝いていく。
 慌ててカバンからノートとペンを取り出し、憂ちゃんに渡す。
 これは……見つけたかもしれない!

憂「それじゃあ住所を――え? それは分からないの? あっちょっと電波が…」

 切れてしまったらしい。
 まただ、これじゃあ律の二の舞だ……。

憂「ごめんなさい、向こうの携帯だと思います……」

 でも、少しは進展があったみたいだ。
 あとはどうにかして鈴木さんに連絡を取れれば……

澪「じゃあ、律たちに伝えとくよ。そろそろ唯たちを助けてやらないといけないしな!」

 そう言って携帯を開こうとしたとき、今度は私にメールが入った。

 ……梓からだった。






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唯「あずにゃん、エレベーター動かない…」 後半

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