戯言ニュース

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唯「く」 梓「ぐ」 憂「つ」
414 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/12/14(月) 21:24:15.63 ID:uS14Vocc0
唯「ど、どうしよう、救急車呼ばないと……」

憂「駄目だよお姉ちゃん。この子は人形だから、病院ではどうすることもできない」

唯「で、でも!」

憂「紬さんに連絡をお願い」

唯「ムギちゃんに?」

憂「あの人が、一番ゆいの身体のこと解ってると思うから」

唯「……わかった」

 お姉ちゃんは携帯電話で紬さんにコールしながら、一度部屋の外へと出た。
 ゆいをベッドに寝かしつけて、彼女用に作ったフリース生地の布団をかける。
 今も尚苦しそうに布団を握り締めるゆいを見て、私は唇を強く噛む。
 私に出来ることは何もないのか……。





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唯「く」 梓「ぐ」 憂「つ」 前半
ブログパーツ 唯「く」 梓「ぐ」 憂「つ」
415 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/12/14(月) 21:25:46.11 ID:uS14Vocc0
 しばらくして、お姉ちゃんが部屋に入ってくる。 

唯「20分くらいかかっちゃうかもだけど、なるべく急いで来てくれるらしいから」

憂「そう……」

唯「そのまま安静にして、傍にいてあげて、だって」

憂「……うん」

唯「あずにゃんにも、一応連絡しておくよ……。もうすぐ来る頃だし」

憂「……そうだね」

 紬さんと梓ちゃんが家にやってきたのは、それからちょうど30分が過ぎた頃だった。



418 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/12/14(月) 21:41:05.16 ID:uS14Vocc0
 前兆はあった。
 昨日の朝から、ずっと眠そうにしていたこと。
 指先でじゃれさせただけで転んだこと。
 私に向かって走る速度が、やけに遅かったこと。
 ゆいが初めて意思を持った日、あの子は私の肩から飛び降りても平然としていた。
 なのに、昨日はお姉ちゃんの肩から飛び降りようとはせず、『降ろして』とせっついた。
 ともすれば、もうあの時既に飛び降りるだけの力が無かったのではないか。
 
 本当は、私だって気付いていた。だけど、何もしてやれなかった。
 どうすればいいのかが分からなかったから、何もできなかった。

憂「(本当に、そう……なの?)」

 私のせいで、私の劣情の影響を受けて、ゆいは苦しんでいるんじゃないのか?
 さっきよりは落ち着いたようだが、ベッドの上で未だ苦しそうな表情を浮かべるゆい。
 なんとかしてあげたいのに。気持ちばかりが焦る。

唯「ゆい……」

紬「そのドール……、ゆいちゃんが意思を持ったのは、十日ほど前だったかしら?」

憂「……」

梓「私が唯先輩の家に行った次の日からですから、正確には九日ですね」

 思考もまともに働かせられない私の代わりに、梓ちゃんが答えてくれた。



419 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/12/14(月) 21:51:30.13 ID:uS14Vocc0
紬「そう……」

 重苦しい空気の中、紬さんが渋面で呟いた。

紬「ちょっと、訊いてもらえるかしら」

 お姉ちゃんと梓ちゃんが、静かに頷く。

紬「意思を持つ傀儡。前例が無かった訳じゃないらしいの。……ドールの関係者に調べさせて、明らかになったことが二つ程あるわ」

 二つ。紬さんはそう述べてから言葉を続ける。

紬「一つ目。精巧に作られたドールは、時として人の魂を宿す。どんな想いでも良いのだけれど、その持ち主の意思が強ければ強いほど、魂は宿りやすい」

 紬さんはそこで一旦台詞を区切る。

紬「過去にも数体、意思を持ったというドールが居たらしいわ」

唯「……ゆいの友達、他にもいたんだね」

紬「これは過去の話なの。だから今はもう……」

唯「あ……、そっか……」

紬「ごめんなさい、唯ちゃん」

唯「う、ううん! ムギちゃんが謝ることなんてないよ! ……ただ、ちょっとゆいが可哀想だなって」

紬「唯ちゃん……」



421 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/12/14(月) 21:53:52.56 ID:uS14Vocc0
梓「それで、ゆいに宿った魂っていうのは……?」

紬「この子の場合、おそらく憂ちゃんの、唯ちゃんに対する想いね」

唯「……憂の、私への?」

紬「ええ、憂ちゃんのシス……いえ、唯ちゃんへの想いの強さは他の追随を許さない、尋常ではないレベルのモノだと思うの」

梓「そこは概ね同意です」

唯「そんなに言われるとちょっと照れる……」

 お姉ちゃんの言葉に、場の雰囲気が少しだけ和む。

梓「……えっと、ゆいに宿った魂は憂の『唯先輩への想い』っていうのは分かりましたけど、ゆいが倒れたことに何か関係があるんですか?」

紬「梓ちゃん、私は過去の事例を述べているに過ぎないわ」

梓「?」

紬「重要なのは二つ目なの」

 紬さんが語気を強めた。
 何を言おうとしているのかは分からない。
 けれどもう、嫌な予感しかしなかった。
 一秒だってこの場に居たくない。その言葉の先を、訊きたくない。



426 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/12/14(月) 22:05:39.16 ID:uS14Vocc0
紬「二週間」

唯「え?」
梓「え?」


 お姉ちゃんと梓ちゃんの声が重なる。




紬「――魂を宿らせたドールは、一件の例外もなく、二週間後に心を失っている」


 心を――なんだって?

 二週間で。

 不意に、視界が滲む。
 
 ――失うと言ったのか?




427 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/12/14(月) 22:07:29.46 ID:uS14Vocc0
憂「嫌……」

梓「……」

憂「そんなの嫌だ……」

紬「……」

憂「嫌だよ……」

唯「憂……」

 崩れるように床にへたり込んで、精一杯ゆいを抱きしめる。
 頬を伝う涙を拭うことも忘れて嗚咽を漏らす私に、ゆいはその小さな手を懸命に伸ばそうとする。

 『どうして泣いているの? 泣かないで、うい』

 言葉は伝わらなくても、気持ちは伝わっている。
 本当に苦しいのは私じゃないのに。
 辛くて仕方ないのはゆいのはずなのに。

梓「……」

紬「……」

唯「ねえ、ムギちゃん」

紬「なにかしら?」




430 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/12/14(月) 22:22:22.22 ID:uS14Vocc0
唯「まだ二週間が過ぎるまで五日もあるよ? なのにどうして、ゆいはあんなに苦しんでるの?」

紬「……」

唯「ゆいが苦しんでいるのは、他の要因があるような気がするんだけど」

憂「!」

 邪気の無い言葉の一つ一つが、棘となって私の心を穿つ。
 その傷口から侵食されていくかのように、胸に、どす黒い何かが広がった。
 紬さんは警告してくれていたじゃないか。
 なのに、私はそれを気にも留めなかった。
 ゆいをここまで苦しめて、追い詰めているのは……、他ならぬ私自身だ。

紬「それは……」

梓「ムギ先輩、さっき一件の例外なく、って言いましたけど」

 口篭る紬さんに、今度は梓ちゃんが問う。

梓「意思を持った例が数件、つまり数える程しか無かった訳ですよね。それなのに二週間でゆいが消えるなんて、決め付けるのは早くないですか?」

紬「……」

梓「前例が無かったら諦めなきゃいけないんですか? 消えてしまうのは仕方ないから黙って見てなきゃいけないんですか?」

唯「あずにゃん……」



433 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/12/14(月) 22:28:28.47 ID:WGVyWubd0
22:22:22.22wwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwww記念



434 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/12/14(月) 22:28:39.98 ID:uS14Vocc0
梓「おかしいです、そんなの。私は唯先輩や憂みたいに、ゆいとずっと一緒にいた訳じゃないけど、二人に負けないくらい、ゆいのことが好きなんですよ」

憂「……」

梓「だから私は、諦めたくない。何ができるかわからないけど、何もせずに後悔はしたくない」

紬「梓ちゃん。さっきも言ったけど、私は前例を述べたに過ぎないわ。諦めろだなんて思ってないし、私だって、この子に消えて欲しくなんかない」

梓「え、それじゃあ……」

紬「私も出来る限り協力するわ。ゆいちゃんが心を失わなくても良い方法を探してみる」

梓「ムギ先輩……」

 梓ちゃんは、紬さんの名前の後に何かを呟こうとして、結局口をつぐんだ。
 そして蹲る私の視線の高さまで屈み込むと、優しく背中を叩いてくれた。

梓「ほら、憂。ムギ先輩もああ言ってくれてるんだから、泣いてる場合じゃないよ。ポーカーフェイスでセクハラに及ぶいつもの憂はどこにいったの?」

 そのセクハラが、ゆいを苦しめているのかもしれない。
 だけど――。

 その言葉で、ようやく覚悟が決まった。
 ありがとう、梓ちゃん。
 
 涙を拭け。後悔する暇があるなら思考しろ。
 私の感情ひとつで、ゆいの身体に影響を及ぼすというのなら……、救うことだってできるはずなんだ。
 ゆいを救う方法は必ずある。




435 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/12/14(月) 22:32:57.89 ID:uS14Vocc0
憂「紬さん」

紬「……今度は憂ちゃんなのね、なにかしら?」

憂「以前言いましたよね。私の劣情がゆいになんらかの影響を及ぼすかもしれない、って」

紬「ええ。人形は人の邪な心をその身に引き受ける存在、だから……」

憂「だったら、私からその邪な心が無くなれば、ゆいは元気になるってことですよね」

紬「断言はできないけれど、その可能性は否定できないわね」

憂「わかりました」 

 劣情がなんだというのか。
 邪な心がなんだというのか。
 
 お姉ちゃんや梓ちゃんを愛する心は決して捨てない。
 だけど、二人と接することで私の中の劣情が膨れ上がってしまうのならば。

憂「お姉ちゃん、お願いがあるんだけど」

唯「なに?」

憂「今日からしばらく、梓ちゃんの家に泊まって欲しいの」

 そもそも接しなければ良いのだ。

 ――見せてやる。私の覚悟を。




436 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/12/14(月) 22:37:03.39 ID:uS14Vocc0
 お姉ちゃんは、最後まで私とゆいのことを心配してくれた。
 どうして私がいちゃ駄目なの? と寂しそうな目をしていた。
 お姉ちゃんなのに、憂の支えになってあげなくちゃ駄目なのに。
 そんな悲壮に満ちたお姉ちゃんの言葉が、何よりも重く胸に突き刺さった。
 逸早く事情を察した梓ちゃんが、そんなお姉ちゃんを嗜めてくれて、二人は家から出て行った。
 ごめんね、二人共。

 身勝手な私を許してください。

紬「ごめんなさい、憂ちゃん」

憂「どうして謝るんですか?」

紬「事の発端は私。私がドールなんか作らせなければ、誰も苦しまずに済んだの」

憂「……違いますよ。紬さんがいなければ、私はゆいに出会えなかった。確かに今は苦しいですけど、まだ終わった訳じゃありませんし」

紬「……」

憂「だから、私は紬さんに感謝こそしますけど、紬さんが私に謝らなくちゃいけない理由なんて何一つないんです」

紬「憂ちゃん……。ごめんなさい、ありがとう」



437 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/12/14(月) 22:38:18.81 ID:uS14Vocc0
憂「そういえば、紬さんはどうして傀儡の実験をしようなんて思ったんですか?」

紬「軽音部はパラダイスよ」

憂「やっぱ言わなくていいです」

紬「あら、憂ちゃんならわかってくれると思ったのに」

憂「今の一言で分かってしまったから言わなくていい、と言ったんです」

紬「ああ、そういうこと……」

憂「紬さんは寂しくないんですか?」

紬「どうして?」

憂「律さんと澪さんは幼馴染で仲が良いし、お姉ちゃんと梓ちゃんは、あの通りべったりです。だけど紬さんにそういう相手は、その……」

紬「それは、貴女も同じでしょう」

憂「へ?」

紬「お互い、歪に捻じ曲がってはいるけれど、私と貴女の根底にあるものは一緒のはずよ」

憂「……言ってる意味がよくわかりません」



438 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/12/14(月) 22:39:11.00 ID:uS14Vocc0
紬「要するに、好きな人が幸せならそれでいいのよ。貴女の好きのベクトルは唯ちゃんのみに傾いているけど、私はそれが皆に向いている」

憂「紬さんは、軽音部の皆さんが幸せそうにしているのを見られればそれでいいってことですか?」

紬「大当たり♪」

 悪戯っぽく舌を出す紬さん。

紬「そして、貴女は唯ちゃんが幸せならそれで全てを善とできる」

憂「……大当たり、と言いたい所ですけど、それじゃ60点ですね」

紬「? ああ、梓ちゃんね。彼女も含めて……」

憂「いいえ。それだけじゃ満点はあげれません」

紬「えっと……」

憂「ゆいですよ。当たり前じゃないですか」

 得心行った、という風に紬さんは頷いた。




439 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/12/14(月) 22:40:16.07 ID:uS14Vocc0
紬「それじゃあ私はそろそろ失礼するわね」

憂「すみません。折角の休みに……」

紬「いいのよ。ゆいちゃんも大分落ち着いてきたみたいだけど、また何かあったらすぐに連絡してね」

憂「はい、ありがとうございます」

紬「それと……、今日一日はその子の傍にいてあげること」

憂「勿論そのつもりですけど」

紬「傀儡である彼女は、貴女の意思を栄養として生きている。傍にいてあげることが、回復への近道だと思うわ」

 私の意志を栄養として……。
 だから私の心に劣情が含まれると体調を崩す、ということか。

憂「わかりました」

 何故だかは分からないけれど、この時私は会話のどこかに違和感を感じた。



444 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/12/14(月) 23:00:44.18 ID:uS14Vocc0
 翌日。
 ゆいの体調は安定しなかった。
 時折苦しそうな表情を浮かべては、私の服の袖をぎゅっと握り締める。
 私はその度に、「大丈夫だよ、ちゃんと傍にいるから」と言い聞かせて、ゆいの髪を指先で撫でた。

憂「……」

 お姉ちゃんの居ない家は、やっぱり寂しかった。
 心にぽっかりと穴が開いたみたいな淡い寂寥感。
 美味しそうに食べてくれる人が居ないと、料理にも作り甲斐を感じない。
 まさかたったの一日で暗礁に乗り上げるとは思わなかったが、だからといって挫けている暇は無い。
 せめてゆいが回復するまでは、この生活を続けていかなければ。

 長時間ゆいから離れている訳にもいかず、朝昼と、有り合わせの食事で我慢した。
 自室に篭って、ゆいの様子を気にかけながらテスト勉強に打ち込む。
 そういえば、先週の今頃は公園に行ってたんだっけ。
 今頃お姉ちゃん、何してるんだろう。



446 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/12/14(月) 23:02:12.10 ID:uS14Vocc0
憂「ねえ、ゆい?」

 多少落ち着いた様子のゆいに、シャーペンの尖ってない方を使って優しく小突く。
 ゆいは、それにじゃれつこうとして起き上がろうとするものの、またすぐにこてん、と転んでしまった。
 やはりまだ回復には程遠いらしい。

 澄み渡るような青空に輝いていた太陽は、いつの間にか厚い雲に隠れていた。
 カーテンの隙間から差し込む光が描き出した灰色の影も、部屋の暗さに飲まれて姿を消した。
 それが、なんだか私とお姉ちゃんの関係みたいで、少しだけ切なくなった。
 光が無ければ影は存在できないのだから。

憂「頑張ろう」

 私にできることは、これしかないのだ。
 耐えろ、ゆいの為だ。
 紬さんが心を失わなくて済む方法を見つけてくれるまでは――。



448 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/12/14(月) 23:19:47.16 ID:uS14Vocc0
 二日が過ぎた。
 学校でも極力梓ちゃんとの接触を避けなければならないのだが、幸いにも今はテスト期間中。
 午前中だけ凌ぎきれば家に帰れるし、テストに集中することで、余計な雑念を捨てることができる。
 ゆいとはずっと傍にいなくてはならないため、布団に包んでブレザーの胸ポケットに落ち着けた。

純「ねえ、憂」

憂「な、なに?」

純「もしかして、徹夜?」

憂「テスト前にそんなことしないよ」

純「じゃあどうしたのよ、憔悴しきった顔してるけど」

憂「あー、まぁ、色々とありまして」

純「梓と喧嘩でもしたの?」

憂「まさか」

純「なんかお互い距離置いちゃってるし、何かあったならそれくらいしか思い当たらないんだけど」

憂「説明すると物凄く時間がかかるから、今はテスト勉強に集中した方がいいと思うよ」

純「たかだか10分の悪あがきじゃ点数に大差ないって」



449 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/12/14(月) 23:20:59.46 ID:uS14Vocc0
憂「10分あれば教科書2ページ分くらいは暗記できるのに」

純「それは憂だけだと思う」

憂「そうかな、お姉ちゃんもやればできそうだけど」

純「いや、だから、あんたら姉妹は脳の作りがちょっとおかしいんだってば」

 はぁ、と一つ溜息をついて、純ちゃんは私の胸ポケットのゆいを見つめた。

純「ゆい、苦しそうだけど」

憂「……うん」

純「大丈夫なの?」

憂「あんまり、かな」

 そう。ゆいの体調は一向に回復していなかった。
 しかし、同時に悪化もしていないように思えたから、症状の進行は抑止できているのかもしれないが。

憂「……」

 いつもの癖、とでも言うのだろうか。
 私は不意に、梓ちゃんの方へ視線を送ってしまった。
 梓ちゃんも同様にこちらを見ていたようで、二人の視線が重なった。

梓「……っ!」



451 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/12/14(月) 23:23:02.36 ID:uS14Vocc0
 梓ちゃんは慌てて目を逸らした。
 彼女にはある程度の事情は説明してあるし、私が距離を置かなくてはならない理由も察している。
 だけどそれでも、ゆいのことが心配で仕方ないのだろう。
 苦しいのはきっと、私だけじゃない。梓ちゃんも紬さんも、それに、お姉ちゃんだって……。
 お姉ちゃん。お姉ちゃん。お姉ちゃん。お姉ちゃん。お姉ちゃん。
 お姉ちゃん。お姉ちゃん。お姉ちゃん。お姉ちゃん。お姉ちゃん。

憂「!」

 思わずぶんぶんと首を横に振る。……いかん。禁断症状出てきた。

純「ちょっと、憂?」

憂「え?」

純「今、一瞬目開けたよ、この子」

憂「? 起こしちゃったかな」

純「あ、あれ、また寝ちゃった」

憂「気のせいじゃないの?」

純「うーん、起きたと思ったんだけどなー」

憂「それよりいいの? 勉強しなくて」

純「あはは、古典は苦手なのだー」

憂「諦めてるのね……」




454 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/12/14(月) 23:28:46.91 ID:uS14Vocc0
 テストが終わり、教室を飛び出すようにして帰路へ就く。
 期間中は部活動が無いため、下手すればお姉ちゃんとバッタリ出くわす可能性もあるのだ。
 理性なんて気休めにもならないだろう。
 今お姉ちゃんを前にしたら、自分でも何を仕出かすかわからない。
 それほどまでに、渇望していた。

 そんなことになったら、ゆいはきっと……。
 薄ら寒い想像をして、自己嫌悪に陥る。

憂「そんなこと考えてる時に限って、出くわしちゃったりするんだよね」

 独りごちてから、はっと後ろを振り返ってみる。
 だけどそこに人影は無く、どうやら無事に家にたどり着けそうだった。



455 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/12/14(月) 23:29:58.18 ID:uS14Vocc0
憂「ただいまー……、って言っても独りか」

 殆ど寝たきりのゆいは、その声に反応することもない。
 お姉ちゃんのいない家なんて、もはや家でもなんでもない、寒さを凌ぐ為の空間に過ぎなかった。
 ただ広いだけのその空間に取り残され、孤独と同居を始めてから既に三日が経過していた。
 ゆいの為に! と意気込んでいた私は今はもう完全に鳴りを潜めてしまっている。

 それでも意思を曲げなかったのは、愛する娘を救いたいが為か。

憂「愛する娘、とか言っちゃって」

 脳内ナレーションに、お気に召す単語を見つけて思わず頬が緩む。
 寂しい寂しいとは思いつつも、どこまでもポジティブなのが私が私である所以だ。

 ゆいをベッドに寝かしつけてから、着替えを済ませ、明日の準備に取り掛かる。

憂「明日は現国と日本史と……」

 本当に、今がテスト期間中で良かったと思う。
 教科書と問題集をテーブルの上に広げて、私は黙々と知識を頭に詰め込み始めた。

 今日は頭の冴えが良い。スラスラとペンが進んだ為、時間を忘れて学力向上に勤しんだ。
 勉強は調子の良い時に一気にやるべし。
 お姉ちゃんもそういうタイプだし、平沢家は短期集中型なのかもしれない。
 勉強のタイプにそんな言葉があるのかどうかは知らないけれど。



456 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/12/14(月) 23:36:49.00 ID:uS14Vocc0
憂「ん~~」

 充足感と共に軽く伸びをした瞬間、不意に喉の渇きに気がついた。
 いや、喉の渇きを忘れるほど没頭とかどんだけよ、と突っ込みを入れてから、私は時計を確認した。 

憂「……」

 三時間も過ぎていた。
 さすがにちょっと休憩を入れようと立ち上がった私は、ついでに、ゆいの症状を確認しようとベッドに近付く。

憂「……え?」

 思考が。呼吸が。
 一瞬だけ完全に停止した。

 ゆいが、もがいている。
 苦しそうな顔で、自分の胸を必死に押さえて。
 布団なんか跳ね除けて、激しくのた打ち回るその姿は、痛々しくて直視できない程だった。

憂「嘘……、ゆい? ゆい!?」

 暗然とする。

 噴き出る冷や汗が止まらない。

 悪化しないんじゃなかったのか?

 劣情を持たなければ、大丈夫なんじゃなかったのか?



457 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/12/14(月) 23:39:54.06 ID:uS14Vocc0
 慢心していた。
 三日間なんともなかったからって、気を抜いていた。

 二週間で消える――。
 今日は何日目だ? カレンダーを目で追う。
 焦りだけが先行して、今日の日付がなかなか見付けられない。
 ……あった! ……12日目。大丈夫、後二日はある。ゆいはまだ消えない筈だ。

 落ち着け、落ち着け私。
 とにかく、紬さんに連絡を――。

 ピンポーン。

 携帯を手に取ったその瞬間、家のチャイムが鳴った。

憂「こんな時にっ!」

 私は紬さんにコールしながら、慌てて階段を駆け下りる。
 本当は、絶対にゆいから離れるべきではないのだが、この時の私には完全に冷静さを欠いていた。



458 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/12/14(月) 23:40:37.43 ID:uS14Vocc0
 『――……った電話は、電波の届かない所にあるか、電源が入っていないため、かかりません』

憂「なんでっ!?」

 何かあったらすぐ連絡して、って言ってたじゃないかっ!
 いつでも出れるようにしといてよ、役立たずっ!!
 荒ぶる感情を抑えようともせずに、階段を下りきって玄関を目指す。
 勧誘とかセールスだったら玄関にある花瓶で思いっきり脛をどついてやる。

 ピンポーン。

 煩い、一回鳴らせば分かる!
 何度も鳴らすな! ハエのようにうるさいやつね!
 力任せに玄関の扉を開く。

憂「ごめんなさい、今忙しいんで――」

唯「えへへ、着替えを取りにまいりましたー」

 グッバイ リーズン。
 (さよなら、理性)
 ハロー セクシャルディザイア。
 (こんにちは、性欲)



459 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/12/14(月) 23:42:57.97 ID:7CZAutx6O
憂www



461 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/12/15(火) 00:00:13.34 ID:cVmK9VXk0
 お肌ツルッツル。活力に満ち溢れた私は、今この瞬間、世界中の誰よりも良い顔で佇んでいた。

憂「……って」

 うわぁ、やっちゃった……。
 茫然自失。膝をついて、がっくりと項垂れる。
 胸を支配するのは、悔恨の情と自責の念。
 と、とにかく、ゆいを、ゆいの様子を看に戻らなくては……。
 重い足取りで階段を上る。

 ごめんね、ゆい。
 ごめんね、お姉ちゃん。
 私、最低だ。母親失格だ。妹失格だ。
 だから、お願いお姉ちゃん。私を罵って。罵詈雑言で私を詰って。
 お姉ちゃんに詰られる想像をしたら足取りが軽くなった。

憂「……」
 
 ちっとも懲りてない己に自嘲する。



462 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/12/15(火) 00:01:18.79 ID:cVmK9VXk0
 ゆいの安否を確認しに部屋に戻った私は、思わず驚嘆の声を上げた。
 その容態は、意外にも落ち着いていたのだ。

憂「ゆ、ゆい、大丈夫なの!?」

 起き上がることはできないものの、それでもさっきの悶え方が嘘のように、呼吸も安定していた。
 その様子に、一先ずは安堵する。
 だけど、この状況……。

憂「……どういう、こと?」

 半ば、諦めていた。
 だけど、ゆいは……なんとも、ない?

 お姉ちゃんや梓ちゃんと距離を置いて、劣情を押し殺す生活を続けて三日間。 
 ゆいの症状は決して回復しなかったし、治まったとはいえ、悪化の兆候も見られた。

 今朝、純ちゃんと話した時、寝ていたはずのゆいが僅かに目を開いた。
 ……お姉ちゃんのことを考えていたから?

 体育の時間の前、元気のなかったゆいは、お姉ちゃんに預ける時、少しだけ元気になった。
 ……その直前に、私がお姉ちゃんに抱きついていたから?

 軽音部の演奏を聴いたあの日の夕刻、疲れて眠っていたはずのゆいが目を覚まして、ギターを倒した。
 ……家に帰った直後に、お姉ちゃんを押し倒してその胸に顔を埋めていたから?

 決定打となったのは、今しがたのお姉ちゃんへ愛のコミュニケーション。
 あれだけの色欲を前面に押し出して、ゆいの症状は悪化するどころか、寧ろ回復の兆しを見せた。



463 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/12/15(火) 00:02:32.86 ID:cVmK9VXk0
 ――人形は人の邪な心をその身に引き受ける存在。

 ……そうか。

 紬さんも私も、大きな勘違いをしていた。
 考えても見ろ。
 そもそもゆいが意思をもった切欠はなんだ?
 あの日、傀儡としてお姉ちゃんの身体を間接的に撫で繰り回し、その翌日にゆいは覚醒した。
 お姉ちゃんへの強い想い、それが、純粋で奇麗な愛だと錯覚したのがそもそもの間違いなのだ。
 生まれた切欠となった意思が、既に劣情で満たされていたとすれば。
 欲望や穢れといった劣情を、人形が引き受けたその結果、魂が宿ったとするならば……。

 私の劣情はゆいの栄養にこそなれど、毒にはなりえない。
 偶然とはいえ、私は自分でそれを証明してみせたのだ。
 
憂「あれ……でも」

 やっぱりそれだと少し変だ。
 ゆいの性格が純真過ぎる。穢れや悪意から成っているのならば、あんな性格にはならないのではないか。
 それに、お姉ちゃんへのいかがわしい行為は、ゆいが倒れるまで毎日欠かしたつもりはなかった。
 にも関わらず、徐々に体調を崩し、結果としてゆいは倒れた。
 栄養が、私のお姉ちゃんへの想いが足りていなかった?
 いや、それはありえない。私の愛はマントルよりも内核よりも深いのだから。



464 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/12/15(火) 00:04:41.29 ID:cVmK9VXk0
 考えられるとすれば、ゆいが体調を崩した直接的な原因は体育の時間だろうか。
 お姉ちゃんにゆいを預けているため、一時間余りゆいから離れてしまっている。
 だから、一時的にゆいへの栄養供給が絶たれてしまった。

 しかしそれ以前にも体育の時間はあったわけで、私とゆいが離れているケースは他にもある。
 ならば、二週間で意思を失うという前例に則り、その影響で苦しんでいるという考えはどうか?
 お姉ちゃんは、まだ二週間経っていないのに、と否定していたが、可能性は否定できないと思う。
 その前例とやらで、他のドールも同様に苦しんだのかどうかが分かれば、すぐに答えが出せるのだけど。
 この辺は紬さんが分からなければどうしようもない。

 うーん、なんだろう。この変な気持ち。
 何かが、引っかかってるんだよなぁ。

 最初にこの違和感を覚えたのは確か……。
 記憶の糸を手繰る。

 ――傀儡である彼女は、貴女の意思を栄養として生きている。傍にいてあげることが、回復への近道だと思うわ。

 そう、その台詞の後だ。
 ゆいは私の心を栄養として生きている。だから私と離れてはいけない。
 なんだろう、おかしな所は特に思い当たらない。
 もう少しだけ、遡ってみる。

 ――ええ、憂ちゃんのシス……いえ、唯ちゃんへの想いの強さは他の追随を許さない、尋常ではないレベルのモノだと思うの。 

 当たり前だ。私がどれだけお姉ちゃんを愛していると思っている。
 ゆいへの栄養供給が足りていない筈は無い。



465 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/12/15(火) 00:07:44.07 ID:cVmK9VXk0
 ――この子の場合、おそらく憂ちゃんの唯ちゃんへの想いね。

 私のお姉ちゃんへの想い。それが傀儡に魂を吹き込んだ。
 ゆいが意思を持ったのは12日前の朝方。朝方に意思を持つ、ということは、私はお姉ちゃんを溺愛する夢でも見たのか?
 だとすれば、ゆいのあの純真な性格の説明も……、いや、見ていない。
 見ていたら二度と忘れぬよう、大学ノート20ページに渡ってびっしりと夢の内容を書き綴っているはずだ。
 第一それでは、劣情により生まれたという前提が覆ってしまう。

 そもそもゆいが意思を持ったのは本当に朝方だったのか?
 私が気付いたのが朝だったというだけのことじゃないのか?
 ゆいは確かあの時……。そうだ、あの時ゆいは怒っていたんだ。

 怒る?

 決して長くはない期間だけど、ずっと一緒に過ごしてきて、ゆいが怒ったことなんて他にあったか?
 いや、無い。ただの一度きり、あの時だけだ。ゆいは滅多なことで怒らない。温厚な子なのだ。

 そんなゆいが、どうして怒っていた?

 人形にとって一番嫌なことはなんだろうか?
 人形の本文は人に愛でてもらうことだ。ゆいは抱きしめたり撫でてあげると、本当に嬉しそうに笑った。
 だから、愛でてもらうのはあの子にとって一番の幸せなのだ。

 その対極にあるのは……、蔑ろにされて、捨てられてしまうこと、か。
 存在を忘れられ、押入れの中に閉じ込められたらぬいぐるみや人形は、きっと心で泣いている。
 捨てられてしまったら、彼らの人生は終わりなのだ。それは悲しいことだろう。

 ……気付いてもらえなかった?

 もしかして、ゆいはもっとずっと早くから意思を持っていて、気付いてほしかったのに私が気付かなかったから……だから怒っていたんじゃないのか?



466 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/12/15(火) 00:09:32.16 ID:cVmK9VXk0
 ――貴女の好きのベクトルは唯ちゃんのみに傾いているけど、私はそれが皆に向いている。

 全く関係ないような台詞が浮かんだ。
 私の好きのベクトルがお姉ちゃんに向いているのは当たり前のことで……。

 ……好きの、ベクトル?

憂「……あ」

 そういう、ことか……。
 完全に見落としていた。
 ゆいに宿ったのは、『お姉ちゃんへの想い』だ。
 第三者が、私と同じ気持ちのベクトルを持っていたとしたら。その気持ちが、私と同じように人並み外れていたとしたら。

 ――精巧に作られたドールは、時として人の魂を宿す。どんな想いでも良いのだけれど、その持ち主の意思が強ければ強いほど、魂は宿りやすい。 

 他人を自分の意図で操るために作られた傀儡。
 お姉ちゃんの髪の毛をセットしただけで、抜群の効果を発揮していた傀儡。
 それが、髪の毛が一度外れただけで、再び付け直しても機能しなくなった理由。
 操り人形として機能しなくなった理由が、人形が魂を持ってしまったからだとするのならば――。

 きっと心が宿ったのは、あの瞬間。
 ……ドールを奪い合ったじゃないか。私と同じくらい、お姉ちゃんを強く想う人間と共に。

 ゆいに宿ったのは、二人の心。
 お姉ちゃんを想う、私の愛とずば抜けた劣情。
 そして、――梓ちゃんの純粋な恋心!

 ゆいが体調を崩したのは、栄養供給が足りていなかったからで間違いなかったんだ。
 私からの供給は行き届いていた。けれど、梓ちゃんから離れている時間が長すぎた――!



468 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/12/15(火) 00:10:37.39 ID:cVmK9VXk0
憂「お姉ちゃん!!」

 ばっ、と振り返る。
 お姉ちゃんは、毛布一枚で身体を隠して、部屋の隅っこでガタガタ震えていた。

唯「は、はいっ、ごめんなさい!?」

憂「……」

 いや、うん。
 過去は振り返るまい。

憂「お姉ちゃん、もういいの。家に帰ってきて」

唯「え、でも……、私がいたらゆいが……」

憂「違うのお姉ちゃん、ゆいはもう大丈夫なの。そもそもお姉ちゃんが出て行く必要なんてどこにもなかった」

唯「そ、そうなの? 良かった……」

 心の中で静かに侘びる。
 お姉ちゃんにはまだ真実を伝える訳にはいかなかった。



470 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/12/15(火) 00:11:19.85 ID:cVmK9VXk0
唯「それじゃ、あずにゃんにも教えてあげなくちゃ……」

憂「待ってお姉ちゃん。梓ちゃんには私が連絡するよ」

唯「え? ……うん、わかったよ」

 それから紬さんにも。
 いくつか確認しなくてはならないことがある。

唯「あ、あの、憂……」

憂「なに?」

唯「ふ、服、返して……」


 グッバイ リーズン。
 (さよなら、理性)
 ハロー セクシャルディザイア。
 (こんにちは、性欲)



471 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/12/15(火) 00:13:02.15 ID:K/oh4jTRO
ナニをしたって言うんだwwwwwwwww



472 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/12/15(火) 00:16:32.28 ID:K/oh4jTRO
ゆいの設定に本気で感心した



474 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/12/15(火) 00:21:08.76 ID:E8rDz3dyO
憂やばいなwww



527 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/12/15(火) 20:55:34.02 ID:cVmK9VXk0
梓「……えっと、ごめん、うまく聞き取れなかったみたい。もう一回言ってくれるかな?」

 よかろう。
 何度だって言ってやる。

憂「今宵、お姉ちゃんに夜這いをかけます」

梓「……は?」

憂「お姉ちゃんを助けたくば、至急平沢家に急行されたし」

梓「……」

憂「……」

梓「ちょっと、意味がわからない」

憂「私が、お姉ちゃんの寝込みを襲います」

梓「言い方変えただけだ、それは」

憂「お姉ちゃんのパジャマを脱がせて、いかがわしい行為に走ります」

梓「だからそうじゃなく……、ぬ、脱がせる? 唯先輩の……いかがわしい……」

憂「梓ちゃん?」

梓「い、いやいやいや、なんでもない、なんでもないから……。なんでそんなことするのよ?」



528 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/12/15(火) 20:57:58.26 ID:cVmK9VXk0
憂「ゆいの為なの」

梓「余計に意味がわからない」

憂「説明すると長くなるんだけど……」

 私は梓ちゃんに包み隠さず説明した。
 梓ちゃんの相槌は分かりやすくて心地良い。
 電話越しとはいえ、今どんな顔をしているのかが容易く想像できる。

憂「……というわけで」

梓「私の想いも、ゆいに魂が宿った要因の一つ……」

 にわかには信じがたい、といった口調で梓ちゃんは呟いた。

梓「その仮説が正しいとしてもさ……。別に、わざわざ唯先輩を襲う必要ないんじゃないの?」

憂「どうして?」

梓「だって、私と憂がゆいの傍にずっと居て、唯先輩のことを想ってさえいれば良いってことでしょ?」

憂「それをずっと続けていたら、ゆいはそもそも体調を崩したりはしなかったんだよ」

梓「私と離れている時間が長すぎて、少しずつ栄養が不足していったってことだよね」



529 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/12/15(火) 20:59:01.01 ID:cVmK9VXk0
憂「うん。ゆいの症状を回復させるには、もっとこう、莫大なエネルギーが要ると思うの」

梓「……莫大なエネルギーとやらを、そっち方向に持っていくのはなんか違うと思うんだけど」

憂「わからずや!!」

梓「キレた!?」

憂「ごめん、冗談だけど」

梓「うん、分かってる」

憂「とーにーかーくー、今すぐ来なさい」

梓「べ、別に行くのは構わないけど」

憂「泊まりで勉強会という名目で、今すぐ来なさい」

梓「どうでもいいけどなんでそんなに上から目線なのよ」

憂「40秒で支度しな!」

 それだけ叫んで、私は電話を切った。
 梓ちゃんは問題あるまい。体面を気にして真っ当な人格を装ってはいるが、アレはアレで結構な変態だ。
 学園都市ならレベル3くらいの変態だ。
 え? 私?
 私はあれだ。頭から花を生やした娘の声だけで欲情するレベルだ。
 かの幻想殺しですら、それを無効化することはできない。

 どうでも良いことを考えながら、私は紬さんの番号をアドレス帳から呼び出し、コールした。



530 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/12/15(火) 21:00:51.01 ID:kXIgxtARO
ういはるwwwww



533 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/12/15(火) 21:13:34.00 ID:cVmK9VXk0
 時刻は午後の10時。
 誘惑に負けてのこのこやってきた梓ちゃんと、何も知らないお姉ちゃんと三人でテーブルを囲んでいる。
 私の仮説が正しければ、この三人が同じ部屋に居る以上、ゆいの体調が崩れることはありえない。

 期末テストは明日で最終日。
 私はお姉ちゃんの居ない寂しさを、テスト勉強で紛らわせていた為、これ以上頭に詰め込むことは何も無かった。
 だから、お姉ちゃんに教えることに集中していた。

憂「えっと、ここは前半の英文から訳して……」

唯「ほぉほぉ」

梓「……」

唯「ねぇ、あずにゃん。明日帰りにさー」

梓「はい?」

唯「コンビニの肉まんはどこが一番美味しいのか食べ比べようと思うんだ」

梓「……夕飯食べれなくなりますよ?」

唯「うん、だからあずにゃんも食べるんだよ」

梓「はぁ、別にいいですけど」

唯「なんかノリ悪いな」

梓「すいません、今暗記に必死だったので……」




534 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/12/15(火) 21:14:23.41 ID:cVmK9VXk0
唯「日本史?」

梓「日本史です」

唯「鳴くよ鶯!」

梓「平安京」

唯「すげえ」

梓「バカにしてんのか」

唯「あ、あずにゃんが怒った……」

梓「先輩が掲載誌一緒だからって安易に他人のネタパクるからです」

憂「はいはい、梓ちゃんの邪魔しちゃ駄目だよお姉ちゃん、続きやろうねー」

唯「は~い」

 残念そうに声を出すお姉ちゃん。
 梓ちゃんが暗記の為にブツブツと呟く。
 私が英文を教えて、お姉ちゃんがスラスラとペンを走らせる。
 ゆいがすぅすぅと寝息を立てる。

 静けさという意味では一人で勉強していた時と大差無い。
 けれど、もう寂しくは無かった。




536 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/12/15(火) 21:31:34.01 ID:cVmK9VXk0
 やがて、お姉ちゃんがぱたり、と後方に大の字に倒れた。

唯「つ、つかれた」

 その様子を見て、梓ちゃんもペンを置く。

梓「今日はこれくらいにしときましょうか。私も疲れちゃいました」

 時計を見れば、既に日付は変わっていた。
 これだけやれば、赤点の心配は無いだろう。なかなかに充実した時間を過ごせた。

憂「お風呂沸いてるよ、お姉ちゃん」

唯「ほーい。じゃあじゃあ、二人共一緒に入ろうよ~」

憂「入りたい所ではあるんだけどね、私はゆいの面倒看なくちゃいけないから」

梓「わ、私もだめです! えっと、ほら、もうちょっと勉強しとかないと、不安ですし!」

唯「ちぇ~、連れないなぁー……」

 ブツクサ言いながら、お姉ちゃんは部屋を出て行った。




537 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/12/15(火) 21:33:44.34 ID:cVmK9VXk0
梓「……はぁ」

 お姉ちゃんの足音が遠ざかって聞こえなくなったのを確認してから、梓ちゃんが息を吐く。

梓「本当にやるの?」

憂「やらなきゃゆいが回復しない」

梓「……」

憂「顔赤いよ?」

梓「演技と分かってても、恥ずかしいものは恥ずかしいもん」

憂「梓ちゃんは良いじゃない、正義のヒロインなんだから」

梓「だって、唯先輩を騙す訳でしょ? 憂は罪悪感とかそういうの無いの?」

憂「無いよ」

梓「うわ、即答……」

憂「だって、愛を確かめ合うだけだもの」

梓「よくそういうことを平然と言えるよね、やってることは変態的なのに」



539 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/12/15(火) 21:36:52.22 ID:cVmK9VXk0
憂「レベル3に言われたくないよ」

梓「レベル? 何の話?」

 なんでもない、と首を横に振る。

憂「明日が最終日だもん、ゆいには元気になってもらわなくちゃ」

梓「え? テストのこと? ……まぁ、そうだね。私もこの子には早く元気になって欲しいよ」

 二人並んで、ゆいの寝顔を覗き込む。
 安らかだった。まるで人形のような、白くて綺麗な――、いや、人形だよ。
 何を言っているんだ、私は。
 意思を持っているだけで、元々人形なのだ。この子は、まだ……。

梓「私と憂の意思を半分ずつってことはさ……」

憂「お察しの通り、私と梓ちゃんの子供です」

梓「怖いこと言わないでもらえるかな……」



540 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/12/15(火) 21:37:38.59 ID:cVmK9VXk0
憂「梓ちゃん」

梓「な、なに?」

憂「少しの間、ゆいをお願い」

梓「いいけど、どうしたの?」

憂「ムラムラしてきたからお風呂行ってくる」

梓「分かった。いってらっしゃ――待てい」

 がしっと、手首を掴まれる。
 なかなかの反射神経だ。ふふふ、こやつめ。

憂「ここから先へ進みたければ、私を倒していけと、そういうこと?」

梓「違うけど行かせない」

 そしてキャットファイトが幕を開けた。




542 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/12/15(火) 21:53:02.20 ID:cVmK9VXk0
唯「すっきりすっきり。お風呂あいたよー……って、なにしてるの?」

 戻ってきたお姉ちゃんが、ドアを開けて立ち尽くした。
 その視線の先には、ブラジリアン柔術の寝技を仕掛けてマウントを取る私と、その下で枕を使って本気で私をブッ叩く梓ちゃん。
 お風呂上りのお姉ちゃんに匹敵するほど、私と梓ちゃんの身体からは湯気が立ち昇っていた。

唯「二人が私に隠れて、こんなことをしていたなんて……っ!」

 お姉ちゃんは膝から崩れ落ちて、女の子座りの姿勢で両の手を床についた。

憂「待ってお姉ちゃん、これは違うの」

梓「そ、そうそう。憂がまたバカなこと言い出したから私は止めようとしただけで……」

唯「ふーん……。仲良いんだねー」

 ああんっ! 拗ねていらっしゃる!?
 いけない、これでは私の計画が!!

梓「ご、誤解ですからね唯先輩! 前にも言いましたけど、私は先輩のことしか、ジト目やめてください、可愛らしすぎます。凶器ですそれは」

唯「私がお風呂誘ったのに、二人共断ったくせにさ」

 だがしかし、拗ねた様子が一段と可愛らしい。

憂「……」
梓「……」




543 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/12/15(火) 21:54:48.65 ID:cVmK9VXk0
唯「いいもん、私はもう寝るから。二人で仲良くしたらいいじゃない」

憂「お姉ちゃんがそういうのであれば、仕方ない」

唯「……え?」

 梓ちゃんとアイコンタクトを取る。
 一秒、二秒、……把握した。お互いに頷く。

憂「今だ!!」

梓「う、うわあ!?」

 ――もはや、夜這いである必要は無い。ていうか時間的に見れば十分夜這いである。
 私は隠し持っていたロープで梓ちゃんを縛り付けた。
 あくまでも演技であり、簡単に解けるよう結び目は緩めておく。

唯「ちょ、ちょっと、憂! なにしてるの!?」

梓「し、しまった……!」

憂「さて、邪魔者は居なくなったよ、お姉ちゃん」

唯「きゃっ!? う、うわあっ、憂、目が怖――」

憂「さあ、お姉ちゃん」

 両の目をくわっと見開いて、お姉ちゃんに迫る。



544 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/12/15(火) 21:57:16.36 ID:cVmK9VXk0
唯「な、なに……かな?」

 じりじりと、壁際に追い詰める。
 やがて、お姉ちゃんの背中が壁に触れた。

唯「ひっ!?」

憂「逃げられないよ、お姉ちゃん」

唯「う、憂、落ち着こう? ね? 私が大人げなかったです、拗ねてごめんなさ――」

梓「唯先輩! 逃げてください! 今の憂は――ッ!!」

憂「WRYYYYYY!」

唯「あうっ!? ……ま、またですか?」

憂「お姉ちゃんが可愛いから悪いんだよ」

梓「ちょっと待て。またってどういうこと?」

 梓ちゃんが素になっていた。

憂「昼過ぎに同じ展開を少々」

梓「あんたって子は……」

 私は慣れた手付きで、お姉ちゃんのパジャマをずり下ろす。
 梓ちゃんが過剰に反応していた。



545 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/12/15(火) 21:58:01.96 ID:cVmK9VXk0
 ――そろそろ動いていい?
 ――ダメ。下着までずり下ろしてから。
 ――憂、それ本当に演技?
 ――言ってる意味が分からない。
 ――こ、こいつ……。

唯「い、嫌っ、助けて、あずにゃ――んぅっ!?」

 お喋りな口には唇を重ねて蓋をする。

 さてさて。いとしのいとしのお姉ちゃん。

 昼間の続きを致しましょうか――。

唯「んぅーーーー!? んんんんーーーーーーーっ!?」

 はぁぁぁん。
 これこそが私の求めた悦楽の時。
 愛しています、お姉ちゃん。

 梓ちゃんの方から凄まじい殺気を感じるけど、気にしない。
 だって、演技だもの。



546 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/12/15(火) 21:58:05.46 ID:tVyZu/aqO
憂は本気だ!



547 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/12/15(火) 22:01:12.97 ID:cVmK9VXk0
梓「んにゃあぁぁぁーーーーっ!!」

憂「ごぶぁっ!? なっ、いつの間に!?」

 アメフト顔負けのタックルを真横から食らって、私はそのまま弾き飛ばされた。

唯「あ、あずにゃん!」

梓「許さない! いくら憂でも許さない!!」

 梓ちゃんは私からマウントポジションを奪うと、そのまま引っ掻く。引っ掻く。
 泣きながら引っ掻、いた、痛い、痛い痛い痛いちょ、ちょっと待て、それ本気。梓ちゃんそれ本気。

梓「これ以上唯先輩に酷いことするなっ! 先輩は私が守る!」

憂「くっ、ここまでね……」

 辛うじて搾り出した決死の捨て台詞と共に、フーフー言いながら荒ぶる梓ちゃんから逃げるようにして、私は部屋から退場する。
 なんだよこの役回り。
 言いだしっぺの私が一番の貧乏くじじゃん。

 だけど、これも全てゆいの為。
 ……後は二人に任せよう。




548 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/12/15(火) 22:15:43.90 ID:cVmK9VXk0
 小鳥の囀りが聞こえる。
 カーテンの隙間から差し込む柔らかな朝日は、私に穏やかな目覚めを齎した。

憂「……おはよ」

 枕元にはゆいが居る。
 私が起きたことに気がつくと、お日様みたいな明るい笑みで、私の顔に飛びついてきた。

憂「ふふふ、くすぐったいってば」

 私の劣情と、梓ちゃんの純粋な想い。
 二つを融合させた見事な作戦だった。
 梓ちゃんには演技と伝えていたが、私は本気でお姉ちゃんに欲情していたし、梓ちゃんは本気でそれを阻止しようとした。
 計算通りといえば計算通りで、ゆいも回復しているのだから、満点のデキだった筈なんだけど……。

 どうして私はこんなにも凹んでいるのか。

 お姉ちゃんと梓ちゃんが同じベッドでいちゃこらしてる間、私は一人、涙で枕を濡らした。
 これも日頃絶やすことのないセクハラへの報いか。



549 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/12/15(火) 22:16:24.81 ID:cVmK9VXk0
憂「……とにかく、まずは誤解を解かないとね」

 このままでは、いくらなんでも私が可哀想すぎる。
 着替えもせずに、カーディガンだけ羽織ってお姉ちゃんの部屋へ赴いた。

 胸を張って、堂々と扉を開、開、あ、ちくしょう、鍵かけられてる。
 だけど、鍵なんて私の前には無力よ。
 フフンと胸を張ってから、私は隠し持っていた合鍵で堂々と扉を開いた。

 なに、臆することはない。
 私は、決して間違ったことはしていないのだから。
 ゆいの為という大義名分を掲げて、私とはお姉ちゃんのベッドの前で仁王立ちする。

憂「お姉ちゃん!」

 私の声に、梓ちゃんが気まずそうな顔をして起き上がった。

唯「……」
梓「……」

憂「ごめんなさい!」
梓「ごめんなさい!」

 そして二人並んで土下座した。




552 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/12/15(火) 22:33:20.42 ID:cVmK9VXk0
憂「……という訳で、昨日のアレは全部ゆいの為だったの」

 実際にゆいが回復したというアドバンテージをそれとなく振りかざし、誠心誠意込めて説明する。

唯「……あずにゃんも、共犯だったってこと?」

梓「わ、私は最初は反対したんですよ? だけど、他に方法がないからって言われて仕方なく……」

 なっ、こやつ……、この期に及んで自分だけ罪を軽くするおつもりかっ!?

唯「じゃあ、先輩は私が守るって言ってくれたのも……」

梓「そ、それは……」

 俯いて赤くなる梓ちゃん。
 
梓「そこは台本にないです」

 台本なんて元々ねえよ!
 知らぬ間にしたたかになりやがった梓ちゃんを睨みつけると、頬をかきながら視線を逸らされた。



553 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/12/15(火) 22:35:17.56 ID:cVmK9VXk0
唯「……」

 一方で、やっぱり俯いて赤くなるお姉ちゃん。
 普段この程度のことでは照れないお姉ちゃんが照れるとは……。
 やはり相思相愛なのか。もう結婚しちゃえばいいのに。お姉ちゃんと梓ちゃんと私が同居する夢の空間。愛の巣。平沢家改め桃源郷。
 ――ういー、おはようのキスだよー。
 ――嗚呼っ、愛してる、お姉ちゃん!
 ――私もだよ、ういー。
 ――あーっ、唯先輩、私というものがありながら!
 ――こうすれば、間接キッスだよ、梓ちゃん。
 ――う、憂……。
 
 そんなバカな妄想に全力で頬を緩めていると、ゆいにぱちん! と叩かれた。
 我に返った私は、再びお姉ちゃんに頭を下げた。

憂「もうこんなことしないから。お願い、許してお姉ちゃん!」

唯「……ううん、いいよ。そういう事情があったのなら仕方ないもん」

梓「その事情を作り出した根源が、そもそも穢れてるんですけ――痛い痛い痛い」

 余計な事を口走る梓ちゃんの頬を、微笑みながらつねる。
 そんな様子を見て、お姉ちゃんが笑った。

唯「ただ、もっと早く教えて欲しかったかな。私にだけ事情教えてくれないなんて、そんなの寂しいよ」

憂「……ごめん」

 だけど、お姉ちゃんに全てを伝えてしまっていたら、私はあそこまで欲情していなかったし、梓ちゃんも本気でキレたりはしなかった。
 罪悪感こそあれど、私は自分の行いが間違っていたとは思わない。



554 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/12/15(火) 22:35:57.84 ID:cVmK9VXk0
 梓ちゃんの膝の上に座っていたゆいが、そこからぴょんと飛び降りた。
 そして私とお姉ちゃんのちょうど中間あたりまで歩いて、お姉ちゃんにこくりと頭を下げた。

唯「良かったね、ゆい。二人がゆいの為に頑張ってくれたおかげで、ゆいの病気は治ったんだよ?」

 そう言って、ゆいの癖っ毛を優しく撫でるお姉ちゃんに、ゆいは満面の笑みで答えた。

梓「唯先輩、あの、昨日のことは……」

唯「ん?」

梓「律先輩達、というか主にムギ先輩には黙っていて欲しいんですけど」

唯「え~、どうしようかな~?」

梓「な、なんでもしますから……」

唯「本当に? なんでも?」

梓「なんでも」



555 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/12/15(火) 22:37:27.31 ID:cVmK9VXk0
唯「猫耳」

梓「え?」

唯「今日一日、私の前では猫耳着用、語尾に『にゃあ』ってつけて」

梓「……」

唯「返事は?」

梓「わ、わかりました」

唯「わかってないじゃん!」

梓「にゃ、にゃあ……」

唯「ふふふ、おいで。あずにゃん」

梓「にゃあ」

 恐る恐る近付く梓ちゃんを、思い切り抱きしめるお姉ちゃん。
 この様子なら、二人共もう大丈夫だろう。
 私のおバカな発案で、気まずくなられては後味が悪い。
 お姉ちゃんにはまた怒られてしまうけれど、やっぱり二人には笑っていて欲しいから。


 後は、私の問題だ。




556 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/12/15(火) 22:48:42.23 ID:cVmK9VXk0
 テスト最終日。
 昨日の一件で、詰め込んだ知識がぶっ飛ばなくて良かった。

 そもそも憂があんなこと言い出さなければ私がこんな目にあう必要なんてなかったのに。
 あぁ、でも結果的にゆいは助かったし、唯先輩との仲も進行したように思うし、これはこれで良かったのか。
 憂は用事があるとかで、私にゆいを預けてどこかへ行ってしまった。
 一緒にいないといけないんじゃないんかい、『い』を気持ち多めに使って突っ込んでみたが、昨日のアレは想像以上に効果があったらしく、今は離れても問題ないということらしい。

 昨日のアレ。
 うーん。唯先輩、可愛かったなぁ……。

梓「……」

 だ、駄目よ梓、思い出しちゃ駄目!! あれは、そう、夢、全部夢だったんだ!
 やばい、顔が熱くなってきた。どうしよう、顔熱い。
 ちょ、やめ、やめてゆい。今頬っぺた突っつかないで! バレるから! 唯先輩にバレるから!!

 顔を真っ赤に染め上げて、猫耳を着用している挙句、人形に顔を突っつかれながら、それでも頬を隠そうと必死な私は、傍から見たら相当に痛い子である。

唯「あずにゃん?」

梓「え、なんですか? ……にゃん」

唯「よしよし」

梓「猫扱いしないでください……にゃん」

律「ていうか、なんで猫耳つけてるんだ?」

澪「語尾もおかしいぞ」




557 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/12/15(火) 22:51:52.02 ID:cVmK9VXk0
梓「やむにやまれぬ事情がありまして、にゃん」

澪「別にいいんじゃないか? 私は可愛いと思うよ」

梓「あ、ありがとうございます……。そ、それより、ムギ先輩はどうしたんですか?」

 唯先輩のジト目に耐えられず、私は渋々にゃんを付け加えた。

律「用事があるから遅れるとか言ってたけど」

 ムギ先輩も用事か。珍しいこともあるものだ。

律「ま、とにかく久々の部活だ。今日は目一杯駄弁ろうぜ!」

澪「そうだな、目一杯だべr――練習だろそこは!」

唯「おー!」

澪「唯も乗っかるなー!」

 この光景も、なんだか懐かしい感じだ。
 テスト期間という僅かな間、離れていただけだというのに。
 唯先輩とはずっと一緒だった気もするけど、やっぱり心の底から落ち着ける場所は、ここなんだなって改めて思う。

 ゆいを視線で追う。
 机の上を元気に走り回っていた。
 勢い良くジャンプして、唯先輩に抱きついて、今度は律先輩の方へ走っていったり……。
 次は澪先輩のところに――と思ったらこっちへ走ってきたので、頭を撫でてやる。満面の笑みだ。
 この子の無垢な笑みを見せられると、どうしても釣られて笑顔になってしまう。
 ……良かったね、元気になって。




558 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/12/15(火) 22:54:31.78 ID:cVmK9VXk0
 しばらくして、ムギ先輩がやってきた。

紬「こんにちは」

唯「あ、遅いよムギちゃんー」

紬「ごめんなさい、遅れてしまって。あ、唯ちゃん。今日のおやつはケーキよ」

唯「本当!? うわーい!!」

律「子供かよ」

澪「そういう律もずいぶん嬉しそうに見えるけど」

律「ち、違う、私は全員揃ったことが嬉しいんだ」
澪「ほう」 唯「ほう」

律「や、やめろ、そんな目で見るな、あ、梓、お前も何かいってやれよ」
梓「ほう」

律「む、ムギー」
紬「ほう」

律「ゆ、ゆい。お前だけは私の味方だよな?」

 最終的に人形であるゆいに縋る律先輩。しかし、ゆいはつん、とそっぽを向いて唯先輩の腕にしがみついた。

律「くっ、わかったよー! 嬉しいよ、ケーキ食べれて嬉しいよ! これでいいんだろ!?」

 こんちくしょう、なんなんだよその団結力はー! と嘆きながら律先輩が机に突っ伏した。



559 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/12/15(火) 23:01:44.87 ID:cVmK9VXk0
律「……、なんか腹立つな」

 だがしかし、こんなことで諦める律先輩ではなかった。
 狙いを定めるスナイパーのように、澪先輩を見据える。
 この瞳を私は知っている。
 そう、憂が私を眼前にして、いかがわしいことを企んでいる時の瞳だ。

澪「な、なんだよ……」

律「みーおー」

澪「だから、なんだよ」

律「見てくれ! 指のささくれ剥いたら思いのほか深くまで剥けちゃって」

澪「ひぃっ!? み、見せるなー、そんなのー!!」

律「嘘だよん」

澪「……」

 律先輩の頭部に手刀が炸裂した。
 うん、いつもの光景だ。

紬「梓ちゃん、今度はあなたの番よ?」

梓「はい?」



560 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/12/15(火) 23:02:45.87 ID:cVmK9VXk0
紬「ほら、唯ちゃんに何か仕掛けないと」

梓「いえ、いいです。昨日や――あっ! いや、なんでもないです」

紬「なっ、なんですって!?」

 後の祭り。
 よりもよって、なんでこの人にバラしてんだ。

紬「なに? 昨日何があったの!? 唯ちゃん!?」

唯「うぇ!? 痛たたたた、落ち着いてムギちゃん、手首ぐねってなってる! 手首ぐねってなってる!」

梓「いや、あの、なんでもないですからね? 泊まりには行きましたけど、特に何もしてませんから」

紬「嗚呼、なんてこと。テスト期間中に二人は結ばれていたのね……、どうして私を立ち合わせてくれなかったの、どうして……っ!!」

 ガンッ!ガンッ! と何度も机に頭を打ち付けるムギ先輩。
 もはや人の話なんぞ聞いちゃいなかった。
 それを見たゆいがあたふたし始めるが、危ないから離れましょうね、と律先輩が引き離してくれた。



562 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/12/15(火) 23:03:50.53 ID:cVmK9VXk0
唯「あずにゃん」

梓「なんですか?」

唯「抱きついてもいい?」

梓「今まで許可なんかとったことないじゃないですか」

唯「なんとなく、そんな気分なの!」

梓「い、いいですよ、勿論」

唯「えへへ、あ~ず~にゃ~~ん」

梓「……」

 少しばかり、テンションがおかしくなってはいたけれど、軽音部は概ねいつも通りだった。
 何も変わらない、日常。
 平和で、皆が幸せな、あったかい日々が、ずっとずっと続いていくんだ。 

 先輩達が、卒業するまでは、ずっと……。



564 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/12/15(火) 23:09:43.09 ID:cVmK9VXk0
 二週間。
 久しぶりの部活を終えて、部屋でぼーっとカレンダーを眺めていた私は、あることに気がついた。
 今日はゆいが意思を持ったあの日からちょうど二週間後に当たるのだ。
 私と憂は、常にゆいの近くにいなくてはならないはずだが、今私は一人で自宅にいる。
 いいのか? 行かなくて?
 憂はもう大丈夫、と言った。けれど、こんな日々を繰り返した結果、ゆいは体調を崩したのではなかったか。
 なんだろう、何か落ち着かない。

梓「電話、してみようかな……」

 携帯電話を手に取り、呼び出し履歴から唯先輩の番号を呼び出して、そこで私の手は止まった。

梓「なんて言ったらいいんだろう」

 素直にゆいが心配で、とでも言えばいいのだろうか。
 いや、それなら唯先輩じゃなくて憂に連絡を取るのが普通だ。

梓「……って、違う違う」

 一緒に寝たってだけで、別にやましいことは何もしてないじゃないか。
 何を変に意識しているんだ。いつもみたいに普通に、軽いノリで電話したらいいんだよ。しっかりしろ梓!

梓「自然に、自然に……」

 発信ボタンに指をかけた瞬間、着信メロディが鳴った。

梓「わわっ!?」

 2、3回お手玉をした後で、慌てて携帯をキャッチする。
 落とさなかったことに安堵しつつ、液晶に表示された名前を見る。



565 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/12/15(火) 23:12:41.06 ID:cVmK9VXk0
梓「……は、はい」

唯『あずにゃーん?』

梓「どうしたんですか?」

唯『憂がね、ゆいが治った記念に皆で遊ぼうって言ってくれたんだけどさ』

梓「憂が?」

唯『うん。あずにゃん来れる?』

梓「も、勿論です。断る理由がありません」

唯『うわーい! それじゃ待ってるね、あずにゃん!』

梓「はい、それでは」

 電話を切った後、私は小さくガッツポーズをつくった。
 そしてクッションを抱きしめて、クッションに頬擦りしたところで気がついた。


 よくよく考えたら、二人きりでもなんでもねえ。


梓「まぁ、いっか」

 唯先輩に会えることに変わりはないわけだし。
 意気揚々とコートに袖を通し、私は自宅を後にした。



567 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/12/15(火) 23:28:12.12 ID:cVmK9VXk0
梓「こんばんはー」

憂「いらっしゃい、梓ちゃん」

 玄関には見覚えのある靴がいくつも並んでいた。
 憂の用意してくれたスリッパに履き替えてから、二人並んで二階へと向かう。

梓「先輩達も、来てるんだ?」

憂「うん」

梓「あ、そうだ」

憂「どうしたの?」

梓「ゆいって、もう大丈夫なんだよね?」

憂「うん、この通り」

 憂の手の平には、いつものようにゆいが座っていた。
 ゆいは私の顔を見つめて、びしっと敬礼した。
 なんでだよ。普通に挨拶しようよ。これ絶対教えたの唯先輩だろ。



568 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/12/15(火) 23:30:03.52 ID:cVmK9VXk0
梓「そっか、良かった。さっきカレンダー見たら、今日でちょうど二週間だったから……もしかして、って思っちゃって」

憂「大丈夫だよ。私達が、傍にいてあげれば、この子は大丈夫」
  
梓「うん、そうだね。ごめん、変なこと訊いた」 

憂「そういう自覚があるのなら罰としてこの場でスカートを脱ごうか」

梓「先に二階行ってるよ」

憂「……」

 概ね、いつも通りのやりとりだった。



570 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/12/15(火) 23:47:48.86 ID:cVmK9VXk0
 尽きぬ会話と美味しい料理。
 漫才のような掛け合いを見せる唯先輩と律先輩、それに乗っかるゆい。
 呆れながらも笑みをこぼす澪先輩と、必死に突っ込みを入れる私。その光景を見て笑うムギ先輩と憂。
 テスト終わりの解放感からか、皆頗るテンションが高い。

梓「唯せんぱーーーい!」

唯「んぉ? んおおおお!? あずにゃんの方からまさかのハグ!?」

律「うぉい、テンション高いな梓!」

梓「期末終わりましたからね、解放感ってやつです!」

紬「それじゃ、みんなでコレやりましょ?」

唯「そ、それは!」

律「で、伝説の……!」

唯「……」

律「……」

梓「ボケを譲り合わないでくださいよ!」

澪「ほら、憂ちゃんも一緒にやろう」

憂「はい、それじゃあ食器片付けてきますね」



571 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/12/15(火) 23:49:39.15 ID:cVmK9VXk0
唯「私この前これでゆいに負けちゃってさー」

澪「へぇ、ゆいちゃん強いんだな」

 その言葉に、えっへん、と胸を張るゆい。

律「言ってなさい、勝つのは私だ」

紬「最下位の人には罰ゲームでもやってもらおうかしら」

梓「ろくな思い出が無いんでやめてください」

紬「トランプもあるわよ?」

梓「……絵札見せてもらっていいですか?」

紬「どうぞ」

梓「……」

唯「あずにゃん、どしたの?」

梓「……なんでもないです。トランプはまた今度にしましょう」

紬「そんなぁ~」

 至極残念そうなムギ先輩を尻目に、超・人生すごろくの幕が開けた。
 場には笑いが絶えず、私の瞳には、そこに居る誰もが幸せそうに映った。



572 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/12/15(火) 23:57:04.53 ID:cVmK9VXk0
 ――。

梓「自分の番が終わる度に、速攻炬燵行きとは、さすがですね」
唯「だって寒いもんー。ほれほれ、あずにゃんも丸くなりなよー」
梓「いや、猫じゃないんですから」
唯「……」
梓「……」
唯「あずにゃん」
梓「なんでしょう?」
唯「今日、私の前では猫耳で語尾に『にゃん』じゃなかったっけ」
梓「……思い出さなくてよかったのに」
唯「あーーっ! 覚えたのに黙ってたの!?」
梓「忘れる方が悪いんですにゃん」
紬「梓ちゃんの番よー」
梓「はーい!」
唯「逃げるなー!」


紬「梓ちゃんがこのマスで3以上を出したらトランプしましょう」
梓「どんだけやりたいんですかトランプ」



573 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/12/16(水) 00:00:58.13 ID:tXL145ZX0
 ――。

澪「いや、あのな、憂ちゃん」
憂「なんですか?」
澪「唯のことが好きなのは分かるが、その……私達の目の前でそういうことはやめてほしいというかなんというか」
憂「そういうこと?」
澪「い、いや、だから……」
律「なんだよ澪、普通に言ったらいいじゃんか」
澪「い、言えるか!!」
梓「憂っ、いいから離れて!」
憂「ああん、梓ちゃん酷い!」
律「ていうか、なんで唯はそんだけされてきょとんとしてられるんだよ」
唯「いつものことだよ?」
「「「平沢家すげえ!?」」」

紬「あっ、ほら、ゆいちゃんが手品師に転職したわ! 記念にトランプしましょう!」
梓「しませんから!」




574 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/12/16(水) 00:01:48.06 ID:tXL145ZX0
 ――。

律「好きなプレイヤーからサイの目*500円もらえる」
唯「はてさて、ゆいは誰を選ぶのでしょうかっ」
憂「ほら。ゆい、搾取したい憎き相手の前に移動して」
梓「憎きとかつけなくていいから」
澪「順位からしたら2位の憂ちゃんが妥当だよな」
憂「え?」
梓「おめでとう、憂」
憂「ゆい、ちょっと落ち着こうか。好きな人の所に行けって言ったんじゃないんだよ? 搾取したい人の所に」
律「はっはっはー、諦めろ、憂ちゃん!」
憂「うわああん、慰めて、お姉ちゃん!」
唯「よしよし、良い子良い――ひゃっ!? ちょっ、憂、やっ、くすぐったいってば――」
梓「やめんか!」
紬「やめなくていいわっ!」
梓「痛っ!? ちょ、ムギ先輩なにを――!」
紬「トランプ、しましょ?」
梓「しねえよ!?」




576 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/12/16(水) 00:02:32.87 ID:tXL145ZX0
 宴も程よくたけなわ。
 遊びつかれて炬燵でだれる唯先輩と、その真似をして隣に転がるムギ先輩。
 律先輩はマンガを読み始め、澪先輩は詩を書いていた。

紬「そろそろ、帰らなくちゃね」

唯「えー、もう帰っちゃうの?」

紬「ええ、夜半から降るみたいだし」

澪「そうだな。濡れたくはないし、律、私達もそろそろ帰ろう」

律「えー、まだ平気だよー」

澪「あんまり遅くまでいると、憂ちゃんに迷惑だろ」

唯「澪ちゃん、私もいるんだけど」

澪「唯は何もしてないだろう」

唯「し、してるよー! お風呂掃除とか、憂が二階掃除してるとき邪魔にならないように自分の部屋に移動したりとか」

澪「後ろのは全くしてないと言うん……ああ、分かった、分かったからそんな仔犬みたいな目で縋りつくな! りつーー!」

律「うん。そいじゃ、あと10分……」

澪「寝起きかよ! ……あーいいよ、それじゃ私はムギと先に帰るからな!」

律「方向違うじゃん」



577 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/12/16(水) 00:03:22.97 ID:cVmK9VXk0
澪「う……。と、途中まで、一緒に帰るもん」

紬「りっちゃん、ダメよ。澪ちゃんを一人で帰すつもり?」

律「うん、だからあと10分だってば」

紬「りっちゃん」

律「……だー、はいはい。帰るよ、帰りますとも」

紬「うふふ」

澪「梓はどうするんだ?」

梓「わ、私はもう少しだけ。用事があるので……」

律「ふ~ん」

梓「したり顔やめてください、別になにもないですから」

律「ふふふ。ま、がんばれよ」

唯「あ、玄関まで送るよー」

 玄関まで先輩達を見送る。
 外の空気は室内とは比べ物にならないくらいに冷え込んでいた。



578 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/12/16(水) 00:04:16.60 ID:tXL145ZX0
唯「うわ、外寒いねー」

澪「ムギ、降るって言ってたけど、もしかして雪のことか?」

紬「どうかしら? 天気予報では雨だったけれど」

憂「これだけ寒かったら雪になるかもしれないですね」

梓「空気を読んでクリスマスにも降ってくれればいいんですけど」

律「おーおー、乙女だねぇ」

梓「うるさいですよ」

律「なんだよ、褒めてんのに」

梓「からかわれたようにしか聞こえません!」

律「あはは、悪かった悪かった。さて、それじゃ帰るかー」

澪「うん。唯、憂ちゃん、梓、それにゆいちゃんも、またな」
紬「おやすみなさい」

唯「うん、ばいばーい」
憂「はい、また来てくださいね」
梓「おやすみなさい」

 頭の上で大きく手を振る唯先輩とゆい。肩の辺りで小さく手を振る憂と私。
 視界に映る先輩達はどんどん小さくなって行き、やがて見えなくなった。



580 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/12/16(水) 00:05:38.68 ID:tXL145ZX0
唯「憂、どうしたの?」

憂「ううん、なんとなく。雪降ったらいいなぁーなんて」

唯「そうだね、雪合戦とかできるもんね!」

梓「子供じゃないですか」

唯「絶対楽しいよ~」

梓「……まぁ、唯先輩がやりたいって言うなら付き合いますけどね」

唯「えへへ、ありがと~」

 その眩しい笑顔を直視できずに、私は唯先輩から目を逸らすようにして空を仰ぐ。
 見上げた空は、厚い雲に覆われて、月も星も見えなかった。
 ……この様子なら、本当に降るかもしれないな。
 降ってたら泊めてもらおう。うん、それがいい。

唯「うぅ~、寒い~。そろそろ戻ろうよ」

梓「そうですね」

憂「あ、お姉ちゃん達は先に戻ってて。私はもう少し、ここにいるから」

唯「……憂?」



581 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/12/16(水) 00:06:36.37 ID:tXL145ZX0
梓「……」

唯「わかった。私、先に戻ってるね」

憂「うん」

 言って、唯先輩は家の中へと戻っていった。

梓「……憂」

憂「なに? 梓ちゃん」

梓「何か、隠してるよね」

憂「ポケットの中のお姉ちゃんの下着のこと?」

梓「茶化さないで」

憂「……」

梓「……」

憂「ねえ、梓ちゃん」





憂「ゆいは、さ……。ゆいは……今日までの二週間、幸せだったのかな?」



630 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/12/16(水) 20:10:18.99 ID:tXL145ZX0
梓「ちょ、ちょっと待って。それってどういう……」

憂「梓ちゃんが考えてる通りだよ。ゆいは、――もうすぐ消える」

梓「う、嘘……。だって、ゆいは元気に手を振ってたし、今だって……」

 憂の肩に座っていたゆいは、私の視線に気がつくと、私に向けてにっこり微笑んで、


 ――力なく落下した。


梓「ゆ、ゆい!?」

 落下するゆいを、憂は手の平で優しく受けとめる。

憂「時間、みたいだね」

梓「二週間。……やっぱり、そうなんだ」

憂「ドールの中に魂が存在できる期間はキッカリ二週間。言い換えれば、これがゆいの寿命」



631 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/12/16(水) 20:11:02.43 ID:tXL145ZX0
梓「いつから、知ってたの?」

憂「紬さんからはっきり告げられたのは昨日。だけど本当は、初めて宣告された時から気付いていたのかもしれない。救う方法なんか無かったって……」

 ムギ先輩の口から事例が無いことを聞かされた段階で覚悟しなければいけないことだった。
 だけど、私……私達は、ゆいの病気に問題を摩り替えていた。
 ゆいが回復さえすれば、それで全てが解決だって、ゆいは消えなくて済むんだって、勝手に思い込んでいた。

 ムギ先輩は、最初から全てを知っていたんだ。
 知っていた上で、それを私達に悟られぬように振舞った。
 ……あの時。
 諦めたくないなんて綺麗事を並べて、僅かな可能性にでも縋ろうとする私に、真実を告げることができなかったんだと思う。
 あの人は、誰よりも優しい人だから。
 それは、どれだけ辛いことなんだろう?
 大切な人達を騙し続けることは、どれだけ悲しいことなんだろう?
 私には分からなかった。




635 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/12/16(水) 20:37:23.36 ID:tXL145ZX0
梓「どうして、先輩達に言ってあげなかったの? 唯先輩にまで隠して……」

 手の上のゆいを見つめながら、憂はゆっくりと口を開いた。
 ゆいの目は、もう殆ど閉じてしまっている。

憂「私がね、ゆいの立場だったらどう思うかなって、考えたんだ」

梓「……」

憂「別れを惜しんで、悲しんで。そういうのって辛いと思うの。私だったら、最後は楽しい思い出を一杯作って、皆と笑顔でお別れしたいから」

梓「皆を集めたのは最後の思い出作りって訳? ゆいを悲しませたくないから? 憂自信が辛くて辛くて仕方ないのに、ずっと我慢してたって言うの!?」

 憂の言いたい事は私にだって分かってる。
 病気のことがなかったら、もっとゆいに沢山の思い出を作ってあげれたかもしれない。
 昨日、あんな力押しの作戦を選んだのも、残された一日を、思う存分楽しませてあげたいが為。
 それなのに憂が顔を曇らせていたんじゃ、ゆいは心から楽しむことなんてできないから。

 だけど、それじゃ……それじゃあ、憂が苦しいままじゃないか。



638 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/12/16(水) 20:52:22.11 ID:tXL145ZX0
憂「ゆいの幸せが、私の一番の幸せなんだよ、梓ちゃん」

梓「違うよ……、憂は何もわかってない。……目の前で憂が悲しんでるんだよ? ゆいが悲しくないはずないじゃない……っ!」

憂「わかってないのは梓ちゃんだよ。だって、私はゆいの為だったら笑っていられるから。悲しんでなんか……いないから」

梓「嘘だよ……、だったら……だったらどうして泣いてるの!?」

憂「……泣いてる? 涙なんか出てないよ?」

梓「さっきからずっと泣いてるじゃない!! 悲しいよ、別れたくないよって!! 憂の心はもう、ぼろぼろじゃないかっ!!」

憂「……ダメだよ、梓ちゃん。梓ちゃんが泣いてちゃ、笑ってお別れできない」

梓「わ、私は……悲しいから、泣いてるんだよ。……ゆいと別れたくないから……、泣いてるんだよ……!!」

憂「……ごめん、ごめんね、梓ちゃん。……だけど私は、大丈夫だから」

梓「どう、して……。私にくらい、話してくれたって……、なんでっ、一人で、抱え込んで……」

 胸が締め付けられるみたいに苦しい。
 涙と鼻水で、顔はぐちゃぐちゃだった。
 言葉が、浮かばない訳じゃない。
 嗚咽する声が邪魔をして、その先が伝えられなかった。

憂「梓ちゃんは素直すぎるから。これでお別れって知ってしまったら、きっとさっきみたいに素敵な時間は過ごせなかった」

梓「……そう、かも……しれ、ないけどっ!」

憂「……お願い、ゆいと二人だけにしてほしいの」



640 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/12/16(水) 20:56:10.36 ID:tXL145ZX0
 閉じたはずの家の扉が、ゆっくりと開いた。
 内側から扉を開けれる人物なんて、一人しかいなかった。
 随分、泣き叫んじゃったからなぁ……。
 こんな、顔、こんな、ぐちゃぐちゃの顔、あなたには、見せたくなかったのに……。

梓「……唯、先輩」

唯「ごめんね、あずにゃんの声、大きかったから。立ち聞きするつもりはなかったんだ」

梓「あ……」

 ……だけど、先輩は。

唯「間違ってないよ、あずにゃんは。何も、間違ってない」

 いつもみたいに、優しく抱きしめてくれた。
 凍えきった自分の心が、融けていくみたいだった。
 言い様の無い苦しみに荒んだ心が、癒されていくみたいだった。
 ――あったかい。

唯「だけどね」

梓「……」

唯「今は、憂の気持ちを汲んであげて」

梓「で、でも……」



641 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/12/16(水) 20:57:36.67 ID:tXL145ZX0
唯「私も、悲しいお別れがいけないことだなんて思わない」

梓「だったらどうして……!」

唯「憂だって本当は泣きたいの。泣きたくて泣きたくて仕方ない。でも泣けないんだよ……ゆいが、泣けないから」

梓「……っ!」

 物を食べたり、眠ったり、ゆいはどこまでも人間に近い存在だった。
 だから、泣くこともできると思ってた。
 それはきっと憂も同じだったから、あの子は一度だけ、ゆいの前で涙を見せた。
 だけど、ゆいはそれを見て泣かなかった。泣けなかった。
 その時、気付いてしまったんだろう。
 ゆいは、笑ったり悲しんだりの感情表現はできても、涙はでないんだって。
 泣きたくても泣けない苦しみ。
 ゆいが、泣けないのに、自分だけが泣く訳にはいかない。
 だから、憂は……。

唯「それにね、あずにゃん」

 我が子を慈しむかのような、穏やかな口調だった。

唯「憂は、ゆいのお母さんなんだよ」

梓「……」

唯「憂は、ゆいを不安にさせたくないの。『お母さんは大丈夫だから、心配しないで行ってらっしゃい』って、優しく送り出してあげたいんだよ」

梓「憂が……、そんなの、憂が可哀想じゃ、ないですか……」



642 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/12/16(水) 20:58:18.02 ID:tXL145ZX0
唯「言ってたじゃない。ゆいの幸せが、あの子の幸せなんだって」

 そう答えた唯先輩の声は、震えていた。
 バカみたいだ。
 私ひとりで、子供みたいに感情を爆発させて。
 憂や唯先輩の方が、私よりもずっとずっと悲しいはずなのに。
 それでも誰かの為に自分の感情を押し殺しているなんて……。

梓「う、うぁぁぁあああああっ!!」

唯「……ごめんね、あずにゃん」

 唯先輩の胸に必死に縋りついて、私は一人、むせび泣く。


 どうしてこんなに悲しいのか。


 理由はすぐに分かった。


 ゆいとの別れに自分を重ねてしまったから――。


 三月になったら、先輩達は居なくなる。
 私は、一人取り残されて――。

 そんなの、嫌だ。

 唯先輩、あなたと離れたくない――。



643 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/12/16(水) 21:00:03.01 ID:tXL145ZX0
憂「ゆい、寒くない? 大丈夫?」

 手の上のゆいは、ゆっくりと静かに頷く。

憂「ごめんね、もっと早く治してあげられていたら……」

 違う。
 こんなことが言いたいんじゃない。
 最後なんだ、これが最後なんだぞ……。
 伝えたいことは沢山あったはずなのに。

憂「ゆい……」

 視界がぼやけるのだろう。
 ゆいは必死に両目をこすって、私の顔をその小さな瞳に映し出そうとしていた。
 その行動は、溢れ出る涙を必死に拭っているように思えて……ゆいは涙なんか、流せないのに。

 月明かりは届かない。
 今にも泣き出しそうな悲愁の空は、どこか私に似ていた。
 やがて、黒一色に塗りつぶされたその空間で、ゆいの周りだけが淡く煌き始めた。

 それでもう、お別れなんだなって、分かった。



644 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/12/16(水) 21:01:54.14 ID:tXL145ZX0
 僅かに震える小さな体を、私はぎゅっと抱きしめる。
 私は、こんなにもゆいのことを愛しているんだよって、伝えてあげたい。
 体温なんかなくたって、ゆいのぬくもりは私に届いているのだから。
 言葉なんかなくたって、私の想いはきっとゆいに届いてる。


 ゆいは、最後に笑ってくれた。


 二週間なんて、短すぎるよ……。
 もっと一緒に居たかった。
 もっと遊んであげたかった。
 お姉ちゃんとゆいと私で、ずっと一緒に……。

 『う』

 『い』

憂「!!」



645 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/12/16(水) 21:02:37.65 ID:tXL145ZX0
 場は変わらず静寂に支配されていた。
 けれど確かに聞こえたその声に。


 『ありがと……うい』


 優しい雫が、頬を濡らした。
 限界を迎えた灰色の空が、一滴、また一滴と、大きな雨粒を零していく。

 ――ゆいが、静かに目を閉じる。

 不思議と、心は温かかった。

 私は空を見上げて、目を瞑る。

 ありがとう。

 私は、いつまでもあなたのことを愛しているから……。

 ばいばい……、ゆい。

 ずっとずっと、忘れない……。




648 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/12/16(水) 21:04:26.41 ID:tXL145ZX0
 ゆっくり近付くその気配に、私は静かに目を開けた。

 怒られるかなって、思った。

 嘘、ついちゃったもんね。

 また、隠し事しちゃったもんね。

 だけど、この人は、私が何を考えていたかなんて、本当はとっくにお見通しで。

 普段いい加減で、頼りにならないのに。

 なんで、こんな時だけ……。

憂「おねえ、ちゃん……」

唯「もう、我慢しなくて良いんだよ、憂」

憂「……っ! うっ、うあっ、うああああああああああっ!」



656 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/12/16(水) 21:24:43.48 ID:tXL145ZX0
 降りしきっていた雨は朝方には上がり、朝露に反射する光が澄んだ空気を透かしてキラキラ輝いていた。
 結局気温は下がりきらず、雨が雪に変わる事は無かった。
 泣き疲れて、そのまま寝ちゃったんだな……、私。

梓「憂、起きた?」

憂「うん。梓ちゃん、私結局答え聞いてないんだけど」

梓「なんの?」

憂「愛の告白」

梓「されてないよ! されたとしても断固ノーだよ!?」

憂「さすがの私も今のは傷ついた」

梓「あ、その……、ごめん……」

憂「筈もなく、私は今日もセクハラに及ぶのでした」

梓「うぉぉい! 唯先輩にそれ以上くっつくな!!」

憂「と言うわけで、おはよう」

梓「おはよ。朝一の会話にしては濃厚すぎると思うな……」



657 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/12/16(水) 21:25:31.80 ID:tXL145ZX0
憂「大丈夫。これくらいじゃ、お姉ちゃん起きないから」

梓「変なことしなかったでしょうね?」

憂「しないよ。傷心しきって尚変態行為に及ぶとか、私は万年発情期か」

梓「……憂、一晩中泣いてたもんねー」

憂「梓ちゃんだって負けないくらいの大号泣だったじゃない」

梓「うぐ、……まぁ、ここは、痛み分けってことでひとつ」

憂「……」

梓「寝顔は子供みたいなのにね」

憂「お姉ちゃんのこと?」

梓「普段の振る舞いだって、憂の方がよっぽどしっかりしてるし」

憂「しっかりした変態ってどうなの?」

梓「最近、変態を自覚しだしたよね。どうって訊かれても困るけど」



659 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/12/16(水) 21:44:13.39 ID:tXL145ZX0
憂「格好良いでしょ、ああいうときのお姉ちゃん」

梓「……うん」

憂「普段とのギャップにグッとくるよね」

梓「……うん」

憂「セクハラしたくなるよね」

梓「……う――ちげえ!! 何言わそうとしてんの!」

憂「梓ちゃん、お姉ちゃんのこと好き?」

梓「……知ってるくせに」

憂「梓ちゃんの口から直接訊きたいんだよ」

梓「……好き」

憂「梓ちゃんが想っている以上に、私はお姉ちゃんのこと好きだから」

梓「なにそれ」




660 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/12/16(水) 21:44:54.28 ID:tXL145ZX0
憂「梓ちゃんなら許す、とか思ってたけどやっぱり許さない」

梓「はぁ?」

憂「お姉ちゃんは私だけのもの」

梓「シスコン」

憂「うるさい貧乳」

梓「なっ!? わ、私はこれから大きくなるの!」

憂「ふふふ……」

梓「ふ、ふふふ……」



661 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/12/16(水) 21:45:53.39 ID:tXL145ZX0
梓「それで、答えってなんのこと?」

憂「訊いたでしょ? ゆいは幸せだったのかな、って」

梓「なんだ、そんなこと」

憂「……そんなことって」

梓「決まってるじゃない。幸せだったんだよ。あんなに愛されてたんだもん」

憂「……そうなの、かな?」

梓「じゃあ訊くけど、憂はゆいと過ごして幸せだった?」

憂「あ、当たり前だよ、そんなの!」

梓「ほらね。ゆいのお母さんである憂が幸せだったんだから、ゆいも幸せだったに決まってるでしょ」

憂「……」

梓「憂が、ゆいの幸せが自分の幸せだ、って言ってたように、ゆいにとってもそうなんだよ。だから……」

憂「梓ちゃん」

梓「な、なに?」

憂「やっぱり愛してる」

梓「私は別に愛してないからーー! やめろ、くっつくなー!!」



664 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/12/16(水) 21:53:31.64 ID:tXL145ZX0
憂「じゃあお姉ちゃんに」

梓「それもダメー!!」

唯「ん……」

梓「!」
憂「!」

梓「(ほら、起きちゃった)」

憂「(梓ちゃんの声の大きさが原因だと思うけど)」

唯「うい~、ゆい~、あずにゃ……」

梓「……」

憂「……」

唯「好き~……」

憂「!」
梓「!」

憂「梓ちゃん、なんで顔赤くしてるの?」

梓「それはこっちの台詞だよ! ていうか、憂が照れるとか、変態の癖に初心とか、ふ、ふふ……」

憂「! 梓ちゃんは私を怒らせた」




665 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/12/16(水) 21:55:03.62 ID:tXL145ZX0
梓「じょ、冗談だってば、ほんのお茶目な――うわあっ!? ちょ、傷心はどこいったのよ、変態行為はしないんじゃ……」

憂「ごめんなさいは?」

梓「ご、ごめんなさい」

憂「上だけで許してあげる」

梓「嫌ぁぁあああっ!」

唯「ん……、あずにゃん?」

梓「お、おはようございます唯先輩」


 もう、悲しくはなかった。
 だって、ゆいは私の中にずっと生き続けるから。

 もう、寂しくはなかった。
 だって、私の周りにはこんなにも素敵な人達がいるのだから。


憂「おはようお姉ちゃん! 愛してる!!」


 爽やかな朝、爽やかな笑顔を振りまいて、今日も私はセクハラに及ぶ。



 ~おしまい~




667 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/12/16(水) 21:58:31.37 ID:HE4zvoJ0O




668 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/12/16(水) 21:58:50.68 ID:qdOTvKWPO

ここ数日間楽しませてもらった



669 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/12/16(水) 21:59:52.47 ID:4V87tRHg0
乙ー
先が気になって仕方なかったぜw



673 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/12/16(水) 22:05:08.27 ID:tXL145ZX0
終わったwwwww

保守・支援部隊と読んでくれた方に最大限の感謝を
長引かせた割に最後微妙だよ!って方にはゴメンナサイ
だけど個人的には完結できたので満足してたり

ではでは、お疲れ様でした




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この記事へのコメント
ここ最近のSSの中で一番面白かった
それと、ヤンデレブームみたいに変態キャラ、もっと流行りそうな気がする
2009/12/17(木) 05:44:17 | No.4101 | 戯言ヴぃp | #-[ 編集]
鼻水垂れ流しながら笑って泣いた!
ギャグパートはロミオさんを若干彷彿とさせるくらいレベル高かったわ

>※1
増えたら嬉しいが文章力無いとこの面白変態キャラは書けんだろうなぁ
2009/12/17(木) 07:09:43 | No.4103 | 戯言ヴぃp | #-[ 編集]
けいおんSSでも1、2を争えるほど笑えるSSだ、はまるな~と思って読み進めてたら、切ない話になって二度びっくりしました。

愛する者との死に別れ(この話に向けて使うには語弊があるけど)、それから生じる葛藤と悲しさ、切なさの描写が的を得てて、名作の部類ではないでしょうか。

しかしこのSSの名作たる所以は、
>>爽やかな朝、爽やかな笑顔を振りまいて、今日も私はセクハラに及ぶ。

というオチを飾るのに相応しい魅力がある、というところかもしれませんね。
2009/12/17(木) 09:05:23 | No.4106 | 戯言ヴぃp | #bxvF113M[ 編集]


読みやすかったし、たっぷり泣かせてもらった。
本当にありがとう
2009/12/17(木) 11:26:26 | No.4107 | 戯言ヴぃp | #.70s4Y7Y[ 編集]
っく…駄目だ涙もろい俺にはもう…
良い意味のキャラ崩壊SSだったな。
2009/12/17(木) 18:10:52 | No.4108 | 戯言ヴぃp | #-[ 編集]
久々の大作だな
おもしろかった
2009/12/17(木) 20:24:29 | No.4109 |   | #-[ 編集]
最初の方だけ見て避けちゃってた
読んで良かったわ
2009/12/18(金) 04:24:31 | No.4110 | 戯言ヴぃp | #-[ 編集]
けいおんSS史上、こんな良作はもう出てこないんじゃないか
2009/12/19(土) 21:36:24 | No.4119 | 戯言ヴぃp | #-[ 編集]
偶にこーゆうのに出くわすからSS漁りがやめられない
2010/01/29(金) 11:26:07 | No.4479 | 戯言ヴぃp | #-[ 編集]
地の文が痛い(柔らかく言えばベタ)なのがちょっと残念
でも特に憂のキャラ付けは最高w
2010/03/11(木) 21:56:28 | No.4633 | 戯言ヴぃp | #-[ 編集]
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